【第261話】一流は“コンセプト”で成功し、二流は“テーマ”止まりで失敗する。

「友人の会社の新事業、苦戦しているから力を貸してあげてくれない?」と親しくさせていただいている社長と一献傾けながら。

 

お力添えしたい気持ちは山々ですが、存じ上げている事業内容から「残念ながら、お役に立てないと思います」とお伝えしました。

 

なぜそう即答できるかといえば、そもそも弊社からお伝えすること自体をご理解いただけないだろうということが容易に想像されたからです。

 

その苦戦中の新事業とは、ある食材の販売拡大、普及を目指されているものです。その取り組み意欲は素晴らしいと言えなくもないのですが、とても残念なことに、その事業は食材の食べ方や提供方法だけ、つまり事業が取組みの“テーマ(主題)”に留まっています。

 

“テーマ”とは、取扱商品やその提供方法による切り口です。よく考えていただきたいのですが、この新事業は、単に「私はこれを取り扱います」と宣言したに過ぎないということです。これは何と言おうと、お客様から見れば「取扱い始めました」にしか聞こえないのです。

 

残念な事実をお伝えしなければならないのは、こういったことで先人たちを超える新事業を築き上げることはできないということです。なぜならば、事業の進歩発展に寄与貢献してきた先人たちは、こういった“テーマ”に便乗してきた人たちではないからです。

 

新事業という挑戦的な取り組みにあって、社長が「事業」というものをどのように考えているかという意識が如実に現れます。

 

事業を進歩発展させてきた経営者というのは、“テーマ”に留まることなく、そういったことを含めた文化や思想の進歩発展、“コンセプト”で物事を深めてきました。

 

ここで“コンセプト”とは、事業の概念、つまり、思考的なこと、「考え方」の違いです。

 

このため、新事業への参入は、創意工夫への覚悟、付加価値の向上開発、努力投資に対する犠牲といったことへの宣言であり、思考的努力への覚悟を伴うものです。これは「これ取扱い始めます」といった行動的努力とは一線を画すものです。

 

なぜ事業を“テーマ”で考えてしまうのか…ということについては、極めて根深い原因があります。それは、経営者自身が本質的な思考訓練を積んでいないことに起因します。“コンセプト”は「概念」ですから見える人にしか見えない思考の世界です。よって、訓練不足からその次元を想像できないのです。

 

例えば、寿司職人の専門学校で数か月間だけ勉強した生徒が運営する寿司店がミシュランで星を獲得した、といったことに対する態度です。このことを捉えて、「寿司職人が何年も修行するのはバカらしいことだ」といった論調が展開されます。

 

こういった論調に、二流は反応しますが一流には響きません。なぜならば、一流は物事の本質がスキルに留まらない目に見えない思考の世界にあることを知っているからです。寿司職人が修行の中で学ぶのは、スキルだけではなく、むしろ、寿司道、日本料理の文化、料理人としての姿勢…、こういった基礎となる思考法、姿勢を修得しています。

 

新事業を真に進歩発展的で採算面でも持続可能なものにしようとするならば、“コンセプト”を整えようと努力することです。それは、新たな切り口で市場を括り直す、追加的な価値提案を考える、自らの意志を込める、といった思考的努力をすることです。

 

改めてお伝えするならば、“コンセプト”レベルの商売と“テーマ”レベルの商売というのは、似ているようであっても全く異なる次元にあります。

 

不思議なことに、一流の側はそのことに気付いていて謙虚に一層と思考を深めようと悩み続けますが、二流に限って思考的な努力に意識を向けることなく行動的なことだけで「どうだ」と胸を張ります。

 

“コンセプト”レベルの事業と“テーマ”レベルの事業というのは、例え取扱商品が同じようなモノであっても、背景に持つ思考の深さが異なる点で全く違うビジネスです。

 

新たな“コンセプト”を生み出そうと考え続けるのか。あるいは、新たな“テーマ”への取組み宣言を続けるのか。どちらの世界も商売ではありますが異次元にあり、どちらの世界に棲むのか…一流と二流を分かつ経営者の意志が現れます。

 

御社の新事業は“テーマ”止まりになっていませんか?

一流経営者として“コンセプト”の深化を目指していますか?

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