【第219話】できること、したいこと、やるべきこと、事業難易度の判断軸

「それは、いずれ当社でやらなければならないことですので…」、とある新製品の開発を成し遂げた経営者が開発着手の頃に言ったことです。

 

できるかどうか分からないのに、それに取り組むかどうかを決めなければならない。経営者の意思決定とは、分析などでは計り知れない極めて人間的なことです。

 

当たり前ですが、「できることが見通せて実行すること」というのは挑戦ではありません。できないかもしれないことに参戦してはじめて挑戦領域に出ているということです。

 

簡単そうにも聞こえますが、挑戦領域に踏み出すことというのは、本当に大変なことです。自分個人のことであれば直ぐに初めれば良いのです。「オレ、ちょっとギターを始めてみたんだ」というのは、いくらでもおやりになればよろしいと思います。

 

ところが、こと経営者の意思決定となれば、話はそう簡単ではありません。会社や従業員の未来に関わることです。仕事である以上、ある意味で失敗は許されないし、やるとなれば成功させるまでやりきる覚悟が不可欠です。

 

というのも、挑戦領域というのは精神的に極めて大きな負担がかかることだからです。このため、「まずはちょっとやってみよう」といったことで始めたならば、すぐにその重圧に負けてしまって辞めてしまうことになるのです。

 

とある製造業の社長は自社の収益性を登山に例えて社内に説かれています。目指す収益性・利益率というのは「エベレスト登山級」と説明し、従業員に対してヒマラヤ山脈を乗り切る能力と精神的準備を求めています。

 

また、某IT企業の社長はこう言います。「東京で創業する人が減っている。みんな失敗して消えていったのを見ているからだ。経営者になるなど、簡単に考えない方が良い」と。

 

スタート時点での覚悟、登山口が違うのです。多くの挑戦者がくじけてしまうのは、登山口に立つ際の覚悟、精神的準備が足りないことに起因します。

 

それはそうと、覚悟だけができれば何とかなるというものでもありません。商売を動かしていくことができる能力が備わっていなければ、最終的にビジネスと呼べるものにはなり得ません。ところが、「できること」だけで経営を考えていているようであれば、未来はおぼつきません。

 

その理由は簡単です。「できること」で経営していくというのは、いわば労働対価の経営であって、お客様の側にビジネスの本質部分があるからです。

 

仕事を頼まれる“能力”を持っていること自体は素晴らしいことですが、これはいわば従業員発想、例え一つの企業体という体裁をしていたとしても、労働を提供して対価を頂戴しているという構図において、企業という体裁のサラリーマンということなのです。

 

ですから、一生懸命に「弊社はこんなことができます」と情報発信したところで、それは一種の就職活動であって、新たなビジネスを生んでいることにはなっていないのです。

 

このため、経営者であるならば、できるかどうかは別にして、「したいこと」をどうしていきたいのか…という意志を持っていることが大切です。

 

何でもかんでもやることなど不可能ですが、一つの方向性を持ってトレーニングを積んでいくことでその方向性を拓いていくことは可能です。そして、その分野での能力が専門性と呼べるレベルにまで高めることができれば、ビジネスにおける価格の決定権も手にしていくことができます。

 

しかし、もっと高いレベルで経営と戦っている方々がいます。それは「やるべきこと」と信じてそのビジネスに取り組んでいる経営者です。

 

自社の使命、自分が経営者としてやり遂げるべきこと、ウチがやるべき仕事かどうか…。もうこうなってくると、事業規模の大小、業種業態といったことで比較やコンプレックスのようなものが消えていて、傍からは修行の道のようにさえ見えてきます。

 

ビジネスの難易度とは、能力レベルというよりはむしろ意志レベルの難易度が支配的です。能力向上に努めることも大切ですが、それ以上に経営者としての意志、覚悟の持ち方が重要です。

 

「やるべきこと」、使命感を持って働いていますか?

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