【第209話】経営を伸ばす社長の風格

経営の舵取りが難しい時代です。耳障り良くいえば成熟経済、経営の現場側からいえば低欲求経済。モノが足りていて、将来への不安が高まっていて…、売れない時代です。

 

そんな中、昨今ほとんど耳にしなくなった言葉があります。それは、「多角化」です。「新事業に取り組んでいく」というお話は聞きますが、「多角化していく」という文脈でのお話はまずありません。

 

つまり、新事業とはいえ、既存技術を高めて新たな応用市場を拡げようとしたり、海外など新たな地域に進出したり…ということであって、全くの異なる事業分野に手を出すということは、ほぼ聞かなくなったといえます。

 

なぜ、聞かなくなったのか…。その答えはとてもシンプルです。永い目で見て、多角化で成功したといえる企業がないからです。歴史が物語っているのです。

 

そんな状況ですから、「多角化」という経営方針を聞かなくなった…というよりは、むしろ、「その昔、流行った」の方が、言い得ているように思います。

 

「いやいや、そんなことはない」という方のために補足させていただきますと、例えば飲食店経営者で、希少性を喪失しないように複数のブランド店を作って多店舗展開を図られていているような方もいらっしゃいます。いわゆる、マルチブランド戦略です。

 

ですが、これはあくまでも飲食店という同業種内での応用展開であって、さらに言えば、そういった戦略で上手にやっておられる経営者に共通するのは、得意とする軸があって、そこから外れないように、しっかりとご自身のフィールドを守られています。

 

これは、見ようによっては商品アイテム、ラインがブランドをまたいで拡がっているということであって、いわゆる多角化とは一線を画しています。

 

一方、昔の多角化に近いのが、いわゆるマイクロコングロマリット型の経営です。これは、売上規模は小さくても多岐にわたる複数の事業を持つことで拡大を図ろうとする戦略です。

 

例えば、売上1億円が見込める事業に初期投資5千万円で参入する。これを10回繰り返せば売上高10億円に成長できる、という戦略です。

 

しかし、この戦略、いかがでしょうか? いずれどこか無理とか限界を感じます。お察しのとおり、一つの事業でも大変なのです。それなのに…、ということです。

 

短期の資産運用でやってるだけだから…、ということでしたら少し話は別ですが、本質的な成長発展を願うならば、戦略として構造的な欠陥を抱えていると言わざるを得ません。

 

こうして見てきましたが、企業の本質的な成長とは、「お客様への貢献」を拡大していくことです。決して「お客様からのおカネ集め」ではありません。事業とは「お客様への貢献」であって、「おカネ集めのテーマ」のことではないのです。

 

この決定的な意識の違いが生まれてしまうのはなぜなのか。それは、事業経営にあたって、その道を「極めようとする心意気」が固まっていないことに起因します。

 

事業を「お客様への貢献」と考える経営者は、その道を極めていこうとされているので、やや緩やかであっても、時間とともに自ずと事業の“領域”が拡がっていきます。

 

一方で、「おカネ集めのテーマ」と考える経営者は、他社より上手く…と考えるため、その「やり方」を探し続けます。そうして、テーマをいつまでも次々と渡り歩きながら、事業の“数”だけ増えていきます。

 

本物感漂う社長に共通されているのは、これまでのどこかの時点で「極めよう」とご決断されていることです。「多角化して儲かって仕方なかったが、潰れそうになって、この事業一本に絞って、本当の成長が始まった」。そして大抵の場合、こうも続きます。「もう少し早く気付いていれば、もうちょっと大きくできたかもな」と。

 

社長の風格には、売上規模というよりはむしろ「極めようとする心意気」の違いが現れます。その世界に棲んでいる人に、よそ者では太刀打ちできません。

 

そこで「極めよう」と決めていますか?

その心意気を事業で表現することに挑んでいますか?

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