【第81話】高収益を生み出す事業に必要な準備

その昔、腕の良い機械加工の職人さんの独立パターンというのは相場が決まっていました。機械加工工場に勤め、腕を磨き、経営者から認められる水準になると、旋盤やフライス盤といった生産機械を購入して独立する。。。といった流れです。

 

この場合、独立というのは腕を認められた証であるという意味において、独立そのものが社会的認知であったともいえます。一種の暖簾分けのよう関係であり、元の職場からは、「あいつは腕がいいから」と仕事を流すような関係です。

 

こういった腕の良い職人さんとは、寸法公差も表面粗さも図面どおり、バリ取りなどもとても丁寧で、こういった仕事ぶりが評価されることとなります。

 

ここでの収益の源泉は「能力」であり、訓練で他の人が出来ないような「能力」を身に着けていると、その「能力」そのものが売上の源になり得ます。

 

旺盛な需要下であれば、「能力」を持っていることを知ってさえもらえれば、仕事が来る状況が生まれるという訳です。

 

ところが技術は人が楽な方向に、つまり人を必要としない方向に進歩します。加工機械はNC化(数値制御化)され、人の手で細かい調整をする必要が無くなっていきます。

 

こうなってくると機械加工職人は、もっと高度な能力領域にいくか、NCのプログラムを書くなど新たな能力領域にいくか、ワーク(製作対象物)を設置する単純作業員に成り下がるかの選択を迫られることになります。

 

技術進歩への対応は「能力」を更新していけば良いのですから、大変なだけで、やるべき事は見えているといえます。

 

一方、もっと大変なのは技術進歩ではなく、需要の方です。注文がなければその「能力」は活かすことができない訳で、いずれその「能力」は衰退していくかの様に見えますが、ここからが経営の世界です。

 

実際、現在の経営を見てみればお分かりいただけるかと思いますが、成長発展している企業が、必ずしも最新の技術や「能力」だけを拠り所にしているのではないということです。

 

伝統的な「能力」であっても、それをお客様の“欲しい”カタチに変換できれば、それはそれで商売になるのです。

 

「能力」をカタチにしたのが「製品」です。このレイヤーになると、これまで「こんなことできます」といっていた営業から、「こんな製品あります」に変わっていきます。

 

「製品」競争が激しくなってくると、製品そのものの機能だけでなく、デザインやアフターサービスといった「付帯的」な部分での競争へと移行していきます。

 

さらにその先に行くと、お客様が“欲しい”のは「製品」ではなくてその製品がもたらす何らかの便益であるという点に着目し、お客様にもたらす「便益」を訴求する売り方へと変わっていきます。

 

この「便益」を手に入れませんか、という情報提供が「提案」という訳です。

 

これまで商売の変遷を確認してきましたとおり、「能力」を鍛え更新することに対する姿勢を前提として、その売り方としては「提案」のレイヤーまで持ち上げていかないと、他社に置いていかれることになってしまいますし、収益性を上げていくことはできません。

 

「機械加工承ります」と看板を出して「能力」そのものを売るか、「こんなお困りごとを機械加工で解決しませんか」といって「能力」を手段として「提案」を売るか。これらは同様の「能力」を起点としていても、似て非なる商売であることはいう間でもありません。

 

多くの「能力」ある企業がその能力故に苦しんでいます。新参企業は自身の能力が相対的に高くないことを分かっているので、それを「提案」レイヤーへと持ち上げようと必死になります。

 

その結果、「能力」が高いことで得てきた信用に甘んじてしまう企業と、「能力」は相対的に低かったとしても、その克服のためにお客様のことを考え、「提案」に創意工夫を凝らした企業とが生まれ、収益性に差をもたらし、新参組が老舗組を駆逐していく構図が生まれてしまうのです。

 

御社は“何”を売っていますか?

売りモノを上位レイヤーに持ち上げる取組は進んでいますか?

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