【第64話】事業を“モデル”化して成長をつかむ方法
「〇億までなら行ける。」数年前に聞いた某社長殿のお話。
社長室で面談させていただいた時のことです。これが当てずっぽな数字ではないことくらい、その表情を見れば分かります。未来の数字ではあるものの、確信に近い根拠ある数字なのです。
実際、その会社はその数字に向かっています。むしろ、その数字をオーバーシュートする堅調さで伸びているとさえ言えます。この社長殿がなぜ未来の数字を言えたのでしょうか。
多くの社長殿が未だに「売上はお客様次第」と考えています。これも一面としては事実ですが、このような考え方の場合、未来の経営数字はなかなか語れるものではありません。
では、未来の数字を語れる社長と語れない社長。この違いは一体何なのでしょうか。
未来が見えている社長殿は、いわば“モデル”を手にしています。ここでいう“モデル”とは事業モデルです。「儲けが出る理由」と言った方が分かりやすいかもしれません。理由が分かっているから、その結果としての未来数字が見透けているのです。
今回は順にこの“モデル”の中身を紐解いていきたいと思います。
まず、“モデル”の中で最も核となるのが『価値モデル』です。お客様にどんな価値を提供するのか、お客様は当社が提供するどんな便益にお金を払ってくれるのか、提供プロセスのどこに課金するのか、といった事です。
会計ソフトであれば、パソコンにインストールして使うソフトを単品として販売するのと、クラウドサービスとして使用料を月々課金するのでは、同じ会計ソフトであっても、全く異なる『価値モデル』です。
『価値モデル』は、提供する製品・商品・サービスの特徴に留まらず、その提供方法、マネタイズのポイント、LTV(Life Time Value)の大きさ、季節別・曜日別・時間帯別の価格設定といった収益化に関する工夫を包含します。
続いてのモデルが『顧客獲得モデル』です。どのようにしてお客様を獲得し続けていくのかという、主に販売に関するモデルです。「お客様」という難題を取り扱うだけに、実に多様な工夫が生まれています。
製品別・地域別・顧客別といった伝統的な営業展開であったり、特定の顧客層に絞って徐々に深く浸透していったり、顧客を持つ企業と連携することでそこから紹介される仕組みを構築したり。。。近年ではいわゆる直販、自社で直接的に顧客に売るというダイレクトな販売手法への取組が進んでいます。
『顧客獲得モデル』には、こういった販売チャネル・販売ルートをどう設定するかの他に、広告方法なども含まれます。
そして最後が『財務モデル』です。ここでいう財務とは損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)といった意味だけではなくて、設備を持つか外注か、在庫をどう持つか、物流・倉庫はどうするか、販売はどこまで自社でやるか、数量や価格の変更に関する契約条項をどう設計するか。。。といった費用構造や財務体質形成に関する基本思想のことです。
例えば、ファブレスメーカー(工場を持たないメーカー)は財務モデルが特徴の事業モデルです。事業リスクを積極的に取れる様に保険を活用する場合などもあります。
これまで見てきた『価値モデル』、『顧客獲得モデル』、『財務モデル』は、3つ揃って事業モデルの全体を成すものなので、欠けることは許されませんが、成長をつかむには最低でもどれか一つのモデルで優位性を築くことができれば、利益を生み出すことが可能なようです。
こういった事業モデルが頭の中にあることで、未来をシミュレーションできるようになります。未来が見えるようになるのです。
経営とは、いわば自社独自の事業モデルを作り上げる思考的努力といえます。日々の運営に追われる部分もあろうかと思いますが、成長をつかむには社長殿の時間を如何に事業モデルの設計に掛けるかに懸かっています。
御社独自の“モデル”は何ですか?
儲けの理由は進化し続けていますか?