【第6話】設備投資で後悔しないための目的設定

収益事業の立ち上げでは、開発段階での投資の後、実行拡大段階で様々な設備投資を伴う場合がほとんどです。よって、プロジェクトの推進にあたっては開発段階の検討に加えて、実行拡大段階の検討も進めておく必要があります。

 

実行拡大段階では工場・店舗建設、生産設備導入・増設、顧客管理・受注管理システム導入等、開発段階以上の資金規模で設備投資を行うことになるため、ここでの計画の立て方がその後の経営に大きく影響してくることになります。

 

受注規模の拡大といった量的リスクに対しては、今後の受注リスクを想定しファイナンス理論などの技法を使いながら、設備増設を複数段階に分けるというような柔軟性ある対応を論理的に計画していくことができます。しかし、ここでお伝えしていきたいのは、そういった論理的な計画策定を困難にしている要因と考えられる、経営者ご自身の投資計画に対する質的意識、特に何を目的に設定しているか、という点です。

 

「あんな立派な工場を持ちたい」、「あんなオシャレなお店を持ちたい」、「あんなカッコいいオフィスで仕事がしたい」。。。そういったお話を良く聞きます。外見は誰からも見えるものなので、事業家が一つの目標として、こういった感情を持つこと自体を否定するつもりはありません。しかし、ここであえて“感情”と書いたのは、これらはあくまでも見た目から連想される感情であって事業実態ではありません。いわゆる外見が必ずしも事業実態を表しているとは限らない、と申し上げたい訳です。

 

私は事業が一貫して特定の顧客層に向かってさえいれば、それ以外の人達からの見え方は関係ないと考えています。客先からの信頼とこれに基づく自らの誇りが事業の価値なのであって、他の人達からの見た目など気にすることはないのです。しかし、経営者であっても人間、設備投資にあたってはオーナー意識が働きます。これが強すぎると投資計画に透けて出てしまうのです。こんな立派な工場の、店舗の、ビルの、オーナーになりたーい。。。という叫び声が計画から聞こえてきてしまうのです。そして、その目の曇りが過剰投資を積極投資と読み替えてしまいます。

 

もう一つの懸念パターンは「その設備があればこれができるようになって、新しい受注が取れる」という発想です。確かにこの設備を導入すれば、内部の生産効率が向上したり、新たな製品が作れたりするのでしょうが、これらが本当にお客様の価値向上につながるのか、ということです。工夫という付加価値なく設備を導入しただけで投資回収が可能なほど利益が増えるようなら、そもそも苦労は無い訳です。工夫なき設備投資を行えば、既存製品と新製品が共食いするだけです。いずれにしても、設備投資負担以上に付加価値を向上できなければ、売上は増加しても利益の増加は期待できません。

 

私は設備投資を美徳だと考えています。自社に成長をもたらすと同時に、実態経済を動かし豊かさを生み出す源泉だからです。しかし、設備投資は経営者にとって追加的な回収リスクを負うことを意味する訳で、だからこそ、ここでの計画はしっかりと慎重に冷静に実質を見極め、論理的に行う必要があります。

 

設備投資の本質は事業の未来計画に対して足りない能力の獲得です。そして、その能力をお客様のためにどのように使うかという工夫無くして利益の増加を期待することはできません。設備投資自体は未来構想を実現するための一つの条件ではありますが、これだけで儲けが生まれる訳ではないのです。お客様の価値向上を中心に見据え、利益を生み出す工夫が先にあって、それを実体化させるために投資を企画する、この順番が大変重要です。

 

御社のプロジェクトは設備投資の目的を「お客様の価値向上」に設定していますか?

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