【第58話】経営者にとって正しい“挑戦”とは
経営の一層の飛躍に向けて新しいことに“挑戦”する。是非ともそうして頂きたいし、そのようにお伝えしています。
一方で、まだ止めた方が良い、とお伝えすることもあります。矛盾することを申し上げているように聞こえるかもしれませんが、勝算が見込めない事業計画の場合、そのようにお伝えすることも誠意と考えております。
こういった際には、そう考えるに至った要因として、欠けている視点や実行に向けた論点について、多少申し添えさせていただくようにしています。
“挑戦”というと何やら前向きで美しい響きに感じますが、何に挑戦していくのかを決めないと、経営にとってはとても危険な考え方になり得ます。
例えば、プロのスポーツ選手であれば「海外ツアーに挑戦します」とは言っても、「試合に挑戦します」とは言わないでしょう。
試合をすることは前提であり、そこで勝つことを選手全員が目標としているからです。
これと同様に、経営であれば「事業の一層の飛躍に“挑戦”します。」に違和感はありませんが、「事業に“挑戦”します。」だともはや勝算を全く感じません。
笑い話のように思われるかもしれませんが、こういった調子の計画が実に多く存在し、走り出してしまってから苦戦されます。
より一層の成長拡大には“挑戦”して欲しいのですが、“挑戦”という魅惑的な空気感や熱量だけで事業が軌道に乗るはずがありません。
“挑戦”とは単なる宣言でしかありません。事業経営ではその挑戦領域でどう結果を出すかを競っているのです。
「完成した機械が本当に動くかどうか“挑戦”してみます」では心許ないでしょう。動くことは設計段階で担保されていなければなりません。
“挑戦”すると宣言し、新規事業や新製品の開発に入ったならば、もはや一定の目標達成を前提に考えなければならないのです。
開発というのは“挑戦(チャレンジ)”ではなく、成功を前提にしているという意味において“試行(トライ)”なのです。
開発の完了時点では、その試行がもたらす結果について想定されていることが大切です。
ここでいう結果とは、例えば売上高○~○億円、客単価平均△~△円/人、広告レスポンス□~□円/件、といった幅であっても十分です。
試行の結果、何が出るか分からない、では話になりませんということです。「やってみなければ分からない」にも程度があるのです。
そんな事が分かれば苦労しないというご意見が聞こえてきそうですが、それは思考停止状態、あと一歩深くまで考えて準備しなければなりません。
ただでさえ未経験の挑戦領域に踏み出しているのに、そこでのシミュレーションが不足していては、望む結果を手に入れるのは無理というものです。
“挑戦”的な「熱い経営」も一面としては必要ですが、“試行”の成功確率を高めていく「深い経営」に向けた地道な努力が欠かせません。
経営者の“挑戦”とは、外部環境の変化に抗い自社の未来を変えてみせる事への“挑戦(チャレンジ)”であって、それを実現する具体的な打ち手については“試行(トライ)”であることが肝要です。
御社では“挑戦(チャレンジ)”することを宣言していますか?
事業計画は“試行(トライ)”になっていますか?