【第57話】老舗の風格が古ぼけない理由

日本には創業100年を超える企業、いわゆる老舗企業が2万6千社存在すると言われています。

 

ざっくりいえば、日本の企業数は約300万社で、その数字に対して、毎年4%が創業し、6%が廃業します。開業率よりも廃業率の方が高くなったのは1980年代の前半頃で、この状況は「開廃業率の逆転現象」と呼ばれ、現在も続いています。

 

経営者の“社歴”に対する敬意は半端ではありません。それがどれだけ難しいことで努力や苦労といった言葉では表せない重圧との戦いであったことを知っているからです。

 

経営が偶然だけで続くはずもなく、まして同じ売りモノだけで続くはずもありません。しかし、実際に100年を超える老舗企業は存在します。

 

経営にもう一段のテコ入れをしようとした場合、頻繁に「変えていいもの、変えてはいけないもの」といった議論になります。

 

そして答えを出せぬまま「守るべきモノを大切に、変えるべきモノは変えていこう」といった、漠然とした掛け声的なメッセージだけが現場に落ちていくという場面をお見かけしますが、これで社員の行動が変わってくれるはずもありません。

 

何を変えて、何を守って行くのか。。。こういった哲学的な諮問に正解などあるはずもないのですが、経営コンサルタントという立場から、提供できる着手法として大きく二つの切り口で考えるようにお伝えしています。

 

その切り口とは「商品」と「提供方法」です。そして、この際最も大切なのが「お客様から見て違和感の無い変わり方」という点です。

 

今の時代、「商品」と「提供方法」はお客様からはセットで認識されます。完全オーダーメイドの住建屋、ネット専業の印刷屋、クラウドの会計ソフト。。。といった組み合わせで認識されるということです。

 

なぜそうなったかというと、お客様から見れば提供方法まで「商品」に含まれるようになったからです。提供方法は商品の一部なのです。今の時代、商品そのものよりも提供方法に関する姿勢の方が訴求力として強くなっているとさえ言えます。

 

例えば多様な切り口で表現されているのがおそば屋さん。単に蕎麦屋というと老舗の蕎麦屋さんが想起されます。この他に立ち食いそば、手打ちそば、十割そば、更科そば。。。

 

「そば」の前に提供方法や作り手のこだわりといったことに関する冠が付いて、初めてそのお蕎麦屋さんのイメージができあがります。

 

老舗の蕎麦屋は戦争で焼け残ったといったその町の歴史として、立ち食いそば屋は忙しいビジネスマンの時間と財布を応援し、手打ちそば屋は手打ちという技術の担い手として蕎麦文化を守っていくことに賛同を求めています。十割そばや更科そばは、そばの実をどう使うかという素材の活用工夫でそばを楽しむ選択を提供しています。

 

そして、高級な羊羹はそこでしか買えない手土産として日頃の御礼や感謝を意味し、万年筆は贈り物としてビジネスの成功を願っていることを意味します。

 

商売には売る側にも買う側にも伝えたい“意味”があるのです。商品と提供方法の全体で表現した、その“意味”こそが本物であるという風格を醸し出すのです。

 

長く続く企業は、自社の提供する商品の“意味”を時代やお客様に合わせて上手く変えています。「提供方法」という味付けで、その「商品」を買う“意味”を時代に合わせて変えているのです。

 

商品は残念ながら必ず陳腐化します。ですが“意味”を更新し続けることで、販売を確保する道が開けます。そして、その間に新たな顧客層に合わせて違和感なく今の商品をモディファイしていけば良いのです。

 

社長をはじめ企画スタッフは、自社の商品と提供方法までを全体として捉え、お客様に伝えるべき“意味”を開発することが大切です。

 

商品と併せて提供方法も工夫していますか?

御社が発信している“意味”は社員で共有されお客様に届いていますか?

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