【第534話】その新商品、まだ完成していません!?
「どうりで売れない…と思っていましたが、そういうことだったんですね」と社長。情熱あふれる若き社長は、地元発展のためにとの思いから、地場産品を活用した新商品を作り上げました。
新商品の開発や製造にあたっては、製造ノウハウが不足していたことや、自社で製造設備の投資を負担する資金力は無かったことから、OEM製造を請けてくれる先を探し、連携して新商品をカタチに仕上げてきました。
実際、新商品は物理的には“完成”していて、目の前にあります。ところが、新商品は完成したものの、全くと言っていいほど売れない…という現実が目の前に立ちはだかっています。
当然のことながら、OEM先への製造ロット分の支払いは必要ですし、それは会計上、在庫ということで、資金の固定化を招きます。
もっと具体的に言えば、資金が商品という在庫、他に使えないように固定化してしまうといったことは、経営の資金繰りを悪化させ、二進も三進もいかない状況を生み出してしまう原因になり得ます。
一般に、こうした仕入れ材料費、外注費といった通常の業務を回していく上で必要なことというのは、「正常営業循環」と呼ばれ、貸借対照表上は、在庫、棚卸資産として流動資産に分類されます。
ここで、流動資産の“流動”とは、経営において「流動的ですぐに現金化できること」を意味します。
ところが、既に作ってしまった商品が売れない…というのは、商品を現金化できない…ということを意味します。
流動資産でありながら、全く流動的ではない…ということが起こり得ます。
ですから、資金が回らない、資産はあるが足元が苦しい、資金繰りに窮する…ということが起こります。
ちなみに、こうした資金の回り方を「キャッシュコンバージョン」と呼び、事業モデル設計において重要な建付けとなることです。
大切なことなのでもう少し補足すれば、仕入れた材料を加工して販売して、その代金が入金されるまでの日数を「キャッシュコンバージョンサイクル」と呼び、これは短いほど資金効率が良く、安定的であると言うことができます。
あるいは、短いどころか“マイナス”といった建付けも考えられることです。
ここで、キャッシュコンバージョンサイクルが“マイナス”とは、「先に売って後から支払う」というビジネス構造です。
大抵の場合、現金の固定化は経営上のリスクですから、このリスクを巡って取引先間で契約関係が交わされることとなります。
ここで最も理解しておかなければならないことは、そのビジネスを開始する時点で、その取引構造、事業の資金の回り方は決まってしまう…ということです。
これはある意味、勝負は最初から決まってしまう…ということに他なりません。
当然のことながら、売れさえすれば良い…ということです。そうであるならば、なぜ「作ってから売ろうとする」のではなく「作る前に売っておく」ということをしないのでしょうか。
商品が無いのに売れるはずがない…、そうお考えでしょうか。そんなことはありません。商品の“チラシ”があれば、営業はできることです。
商品の製造に入る前に、まずはA41枚で良いのでチラシを作ろうとすることが大切です。
しっかりした売れる商品企画を創り上げることが大切なのであって、それは物理的に商品が出来上がっているかどうかではなく、紙の上でもできることです。
商品を“作る”前に“売る”に取り組もうとしていますか?
新商品の完成は“お客様のご購入”だと考えそこから逆算しませんか?