【第526話】想いを“お花畑”に終わらせないために超えるべき一線
「地域興し、地域の魅力を知ってもらおうと、地場産品である〇〇を缶詰にしました」と若き社長。
こちらの社長、この事業を始めるために東京から地元に戻ってこられ、創業されて事業を開始されました。
役所からも地域からも応援いただき、補助金にも採択されお墨付きを頂いています…。これは素晴らしい事業なのですと、元気ハツラツなプレゼンが続きました。
プレゼンをお聞きした後、廊下でお会いすると「ちょっとご相談が…」とのこと。そのご相談とは…「最初だけちょっと売れたのですが、その後、全然売れない」と。
はて…、プレゼンでは「売れている」と仰っていましたが、実際には売れていない。これは良くあることです。プレゼンが嘘だったわけではなくて、「少しは売れているが採算に乗るほどまでには売れていない」ということです。
最初売れていたのですが…も良くあることです。最初に少し売れるのは関係者や友人知人が買ったからです。その後、売れなくなるのは、そうしたご縁のない方々への販売が伸びないからです。
それはともかくとして、昨今、世の中から事業の意義や目的、どんな考え方で経営しているのかといった経営理念や経営哲学が求められる風潮が強まっています。
当然のことながら、それらは、事業経営において大切なことであることは言うまでもありません。実際、弊社でお伝えしている「経営計画策定プロセス」も、経営理念から始めます。
こうした風潮が問題なのは、こうした未来ある若者を地獄道へと導いてしまう可能性があることです。
こちらの社長の経営が、なぜ具体的な採算を欠く計画になってしまったかといえば、様々な場でプレゼンを重ねる度に、具体的なことを話すと場がシラける一方、目指す未来、事業の意義…といったことを話すと場が盛り上がる、素晴らしいとはやし立てられる…。
こうして経営計画は、聞き手が盛り上がるようにと空想世界の“お花畑”になっていきます。これが地獄道への入口とも知らずに。
この若き社長の状況は、既に銀行から借入も起こして連帯保証もあります。OEMで発注したロット分の支払いは終えていますが、大量の在庫を抱えています。
もしこれが売れず、資金繰りに窮すれば…当然のことながら法人として倒産ですし、個人としても法的な処理が必要になる状況です。
そして「銀行から現状を反映した経営計画を出してくれと言われています。もっと借りられないとマズいので、もっと壮大な計画を描こうかと…」と。
もうお伝えすることは一つです。「銀行から求められている経営計画とは、元本返済の見通しについて、具体的には在庫販売の見通しです」と。
この時の社長の顔色は、今でも忘れられません。自分は今、従業員や家族を路頭に迷わせるかどうかの淵にいて、お花畑論だけで経営は成り立たないのだと悟られた瞬間です。
そしてその後、お手伝いして、商品価値を整え直し、在庫を売り切り、返済計画に変更はあったものの資金もつながり、今は…継続可能な事業、個性的な花を咲かせています。
当然のことながら、事業、ビジネスが頭の中で描く“お花畑”論から始まることは悪いことではありません。ただし、そのお花畑を見せるだけなら無料と相場は決まっています。
それを事業として採算ある継続可能な“花畑”にまで育て上げるためには、売れる花を咲かせなければなりません。
ここで「花」とは、具体的な商品サービスのことです。価格に見合った価値を持つ対価性のある商品サービス、お客様が欲しいと言ってくださるような「花」です。
お客様が買うのは「花」です。どんなにキレイな“お花畑”で育ったとしても、その花がイマイチだったら…、その結果は言うまでもないことでしょう。
経営計画がお花畑に終わっていませんか?
商品サービスは購入に値する「花」に咲いていますか?