【第519話】新商品企画で顧客目線と大衆目線を混同するな!
「まあハッキリ言ってしまえば、これまでの我々のブランド化とかストーリー化は完全に間違ってた訳ですね」と社長。これまでを反省しながらもこれからに自信のニヤケ顔です。
商品製造の技術力は確かなものの、どうしても請負的、下請的になりがちな経営にあって、覚悟を持って自社看板ビジネスを伸ばしていくことを決めたとのこと。
そして、渾身、自分たちで考えて新商品を開発してきましたが、どうもこれで行けそうだという手応えがないということで、この度、現状を整理し、これからの進め方について、お話させていただく機会となりました。
新商品は概ね物理的なカタチとしては仕上がってきているのですが、いかんせん、ビジネスとしての手ごたえが全く高まってこない…という状況です。
まずお伝えしたいのは、開発プロジェクトというのは、大概こういうものだということです。こうした手詰まり感が生まれてきているというのは、ある程度、やるべきことはやりきってきたという証でもあり、ある意味で完成に向けてあと一歩のところまできています。
こうした状況を整理するためにまず大切な認識は、ビジネスとは「商品×市場」で定義されるということです。
モノづくり企業の場合、「市場」を見据えつつも「商品」側から開発着手するものです。
そして新商品の開発が進む中で、競合商品や類似商品が今まで以上に気になりだし、ここまで来たから見えることもあって、自分たちの新商品に迷いや悩みが出てきたりするものです。
面白いのは、この迷いや悩みというのは、「市場」に近づいてきたからこそ、深まってくるものであり、ここが超えていくべき壁といえます。
逆に「市場」側から見れば、その壁をこっち側まで超えてきてくれなければ新商品と呼べるものではありませんし、妥当な価格で買う理由もありません。
この商品と市場の間にある壁を行ったり来たりしながら進めるのが、新商品開発プロジェクトの中身であり、この往復が3往復くらいできると、商品と市場がつながり始めて、ビジネスとしての完成が近づいてきます。
モノづくり企業の新商品開発ですから、物理的にモノだけ仕上げるのであれば、外注も活用して、まあできるのです。
このように、ビジネスとして未完成ながら、モノだけできた状態を完成と考えて、販売を開始しようとすると、売れない…という残念な結果が生まれます。
もうお分かりと思いますが、「商品開発」と「市場開発」で両輪です。市場開発というのは、新規顧客の開拓のことです。
このようにビジネスとして未完成な状態、商品はできたけど市場は未だ…という状態で販売を開始しようとすると、次のような失敗が起こります。
まずは「ブランド化」です。立派なパッケージデザイン、イメージ的なロゴ、詩的なホームページ…といったことです。もはやパッケージを売っているのではないか…といった笑えない状態が起こり得ます。
続いての失敗が「ストーリー化」です。販売を伸ばすにはストーリーが大切…といったことを鵜呑みにして、技術者側が書けばどうしても開発秘話やプロジェクトXになりがちです。
本来、全ては「市場開発」のためなのですが、自分たちの苦労話をカッコよく語るだけのストーリーができあがります。
当たり前ですが、ブランド化もストーリー化も、お客様が新商品の価値を理解いただけるように、お客様の話として説明するための準備です。
市場開発の肝は、いわずもがな「顧客目線」です。お客様から見て…ということです。これを沢山売りたいと思うほど本物のお客様が見えなくなり、世の中の一般論的なニーズウォンツ、みんな欲しいでしょ…の「大衆目線」に堕ちていきます。
市場開発で大切なのは「顧客目線」です。「大衆目線」に堕ちてしまえば、それは顧客不在、ただの一般論でしかないことをお忘れなく。
今一度、2つの開発要素「商品×市場」を意識していますか?
市場開発が“顧客”を忘れ“大衆”になってしまっていませんか?