【第511話】やってみなければ分からない…は嘘か真か?

「次の設備投資は大きなモノになりますが、売上規模の〇割に留め、そのための資金も内部留保を中心に、追加の借入は不測事態対応の手元資金程度に留める予定です」と社長。

 

これまでのご苦労の経験から、リスクの取り方も、ある意味で堅実です。

 

昨今、スタートアップといったことで、大規模なエクイティによる資金調達、短期間での急成長、上場や事業売却でエグジットして、投資資金を何十倍にも増やそうとするような経営スタイルが聞かれます。

 

こうした経営スタイルは、莫大なリターンを目指すと同時に、ある程度の失敗を織り込んでおり、いわば一か八かの博打的経営スタイルと言えるでしょう。

 

確かに夢のある世界ですが、そうした経営者とお会いしてお話を聞けば、その大変さは尋常ではありません。

 

むしろ「経営者なんて、そのくらいのリターンがないとやってられませんよ」と、その責任や役割の重さが巨大化してきたことで、普通にやってたんじゃ割に合わない、やってらんない…ことの裏返しだったりもします。

 

面白いもので、一昔前、経営環境が不安定で仕方なかった時代、経営は常に倒産の危機と背中合わせでした。ですから、経営に大切なのは続けることでした。

 

これは「ゴーイングコンサーン(継続企業)」と呼ばれ、やる以上は続けることを前提に考えろ、製品サービスを着実に供給し続けろ、社会で必要な役割をしっかりと担い続けろ…という教えでした。

 

こうした教えからすると、成功するか消えるか…といった博打的な経営スタイルは良くないことと言えるのでしょうが、そうした博打的な経営が世の中からの求めで生まれているというのもまた事実でしょう。

 

いずれにしても、経営者の失敗として「アクセルを開けるべき時に開けられなかった」ということが挙げられます。

 

一方、トンネルの先が見えないまま、フルスロットルで突っ込んでいくのもまた無謀というものです。

 

こうした状況判断を求められるのが経営者であり、あの時アクセルを開けていれば…は後になってから分かること。とても難しいことです。

 

とかく、すぐに行動…といったことが聞かれます。

 

事実、スポーツのように、身体を動かすことで理解していく…といった過程を想定するならば、確かに動くことで理解が進んでいく…ということが成り立ちそうです。

 

ただし、これを逆から見れば「理解していないのに動いてしまった、やってしまった」ということでもあります。これが責任ある経営者であったならば…ということです。

 

確かに、物事は「やってみなければ分からない」ものです。だからこそ、経営者であれば、やってみたその先を想像できることが大切です。

 

では、やってみたその先を想像できるようになるためには、どうすれば良いでしょうか?

 

この答えはシンプルです。先人から学べば良いのです。先人たちの知恵を学び、そこから結果を類推できるようになれば良いのです。

 

こうした経営者の類推力は、経営計画に如実に現れます。やってみた先が見えている経営者の書く経営計画には、「やること」ではなく「やったらどうなるか」が描かれているからです。

 

経営者の仕事は「考える」ことと言われます。それは、何も哲学者や思想家のようになろうとすることではありません。責任ある立場として、これからやろうとしていることをやったらどうなるか…を考えることに他なりません。

 

一度やってしまったら後戻りはできません。だからこそやる前に考える。考えるための行動、類推力を鍛えるための行動が大切です。

 

やる前に、やった後を考えていますか?

その類推がカラフルになるまで考え抜いていますか?

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