【第509話】高い理念が経営を堕としめてしまう原因と対策
「「〇〇の可能性を追求していく」ことを理念に掲げて頑張っています」と、いずれ社長を継ぐ予定の若き経営者は、渾身まとめ上げたこれからの経営についてプレゼン資料をご説明くださいました。
聞けば、経営者勉強会に参加して、色々と知識を得て、その場の議論でもまれて、ご自身の考えをまとめながら、このプレゼン資料を作り上げたとのこと。
実際、こうした指導を受けているため、プレゼン資料は、戦略策定として芯を食ったものに仕上がっています。
そして若き経営者はこう続けます。「この勉強会のお陰で、経営者としての意識が高まりました」と。
こちらの企業、戦後間もなく創業された業界の老舗です。当然のことながら、作っている商品もある意味で普遍的な商品です。
このため、どうしても日々の仕事はいわば粛々と…いったことになりがちです。もっとハッキリと言ってしまえば、一見、地味な仕事にも見えてしまうモノづくりです。
こうした日々を過ごす中、いずれ社長を引き継ぐという意識もあって、キラキラとした経営者勉強会に参加したならば、そこには、情熱、挑戦、未来…、自分の過ごす毎日とは全く違う世界が広がっていたことでしょう。
そんな刺激を受けながら、このプレゼン資料は出来上がりました。情熱にあふれ、挑戦意欲を高め、描く未来…それらが理念として文言化されています。
これを聞いていかがでしょうか。素晴らしいことじゃないかと思われる方も多いでしょう。ところが、多くの経営者がここから失敗への道を歩み始めてしまいます。
具体的には、新たな商品を考えてもっと販売することに挑戦すれば良いものの、今やっていることを世間に広く伝えることに情熱を費やしてしまうのです。
大切なことなので要約すれば、経営が事業活動から啓蒙活動に堕ちてしまうのです。
というのも、高い理念を掲げたことで、地味な日々の商売に社会的意義が付与されてしまい、そのことを誰かに伝えたくなってしまうからです。
そうした心のズレは、すぐに現れてきます。〇〇の魅力を世界へ、〇〇の可能性に挑戦、〇〇の力で未来を変える…といったことが語られてきたならば、それは確実に失敗への入口に立っています。
私たちは素晴らしい“活動”をしているのでみなさま“応援”してください…と言っています。事業活動が啓蒙活動に堕ち始めてしまっている証拠です。
いずれ、販売活動は、協力依頼、応援要請、支援申請…、協賛募金集めに堕ちていくことでしょう。そして、経営は航続可能な事業性を失い墜落していきます。
最も大きな問題は、世間から広く応援されようとして経営が啓蒙活動になってしまうことで、意識が商品サービスを本当に欲しいお客様ではなくて、商品サービスにさほど興味関心のない人に向いてしまうことです。
つまり、経営意識が、顧客ピラミッドの頂点に居る「真のお客様」から、お客様になるはずもないすそ野の「無関心層」に向いてしまうのです。
真のお客様と対峙することを忘れ、広く応援してもらうために、下に降りてしまっています。立派な理念を掲げたことで仕事の社会的意義だけに目が向いてしまい、その啓蒙活動を請け負った受託人に成り下がってしまっています。
経営が啓蒙活動なのですから、存続可能な事業性、採算性を失っていくのは当然のことです。
お客様から頂戴する売上は、商品サービスの提供対価です。決して、素晴らしい活動を続けるための協賛金ではありません。
商品サービスや業界の普及啓蒙活動は業界団体にお任せして、自社は真のお客様のためにもっと良い商品サービスに挑戦し、その提供対価で存続発展することに専念する意識が大切です。
経営意識は真のお客様に向いていますか?
もっと良い商品サービスに挑戦していますか?