【第499話】お客様に価値を提供しようとしてコスト負担を求めてしまう愚策の構図
「価値と価格の経営の違い、このタイミングで改めて整理できて良かったです」と経営幹部。新たな営業戦略の策定を進める中、お客様からの値引き要請への対応について議論が持ち上がりました。
そこで、その対応にあたってまず理解しておくべき経営の類型をお伝えしました。それは、「経営にはいくつか類型があり、ここで知っておくべきは「価値」と「価格」経営の違い」です。
なぜこのことを改めてお伝えしたかといえば、こちらの企業、過去に大手との価格競争で経営が窮地に追い込まれたことがあるからです。
凄かったのは、そこから新たな価値軸を打ち出して窮地を脱し、現在は堅実に着実に成長の道を歩まれています。
ですが、いつまた同じ轍を踏むかもしれない…そうしたことに堕ちないためにも大切な認識だからです。
ちなみに、お客様からの値引要請の際、御社ではどのように対応されているでしょうか?
もし、御見積の最後の行に「出精値引」と書いているようであったならば、営業戦略、延いては経営方針にまで立ち返って対応を考える必要がありそうです。
商品サービスを販売するということは、その対価として代金を頂戴する訳です。当然のことながら、お客様は“価値”に見合った“価格”かどうかで購入を判断されます。
このように“価値”と“価格”は表裏一体なのですが、どちらから伝えるか…で経営の意味、お客様への貢献が異なります。
「“価値”の経営」とは、商品サービスの価値から説明し、最後に価格をお伝えします。一方、「“価格”の経営」はその逆、価格をお伝えしてから価値を説明します。
大切なことなので補足すれば、価値経営はお客様に追加的な価値で貢献しようとします。一方、価格経営はお客様のコスト削減に貢献しようとしています。
このように、価値経営と価格経営の違いは貢献意欲の違い、とても根の深い経営姿勢の問題なのです。
話を戻せば、価値経営においてお客様からの「値引要請」は「価値の説明が足りていない」というシグナルであり、お客様の問題ではなく、こちら側の説明努力が足りていないと考えるべきことです。
実際、価値の説明はお客様の話で語らなければなりませんからとても大変なことです。価格は数字ですから分かりやすいため、どうしても値引でその場をしのぎがちかもしれません。
しかし、それはいずれ悪習を生み、価値経営が価格経営に堕ちていく、破綻への蟻の一穴となり得る大問題だと捉えておくことが大切です。
また昨今、商品サービスの価値説明を怠り、世の中や社会問題といったことに便乗しようとする経営者が増えています。「この商品は〇〇という世の中の実現に貢献します」と。
そのお考え自体、とても素晴らしいことと思います。ただし、その商品説明はお客様にこう聞こえているはずです。「世の中を良くするためにそのコストの負担をお願いしたい」と。
あなたは商品サービスの価値を訴求したつもりかもしれません。しかし、お客様にはそう聞こえていません。
お客様に価格を上回る価値を提供できないと宣言してしまっていますし、価格力でコスト削減のお手伝いもできないとも。むしろお客様の責任範囲を超えて新たなコスト負担さえ求めてしまっています。
お客様への価値提供を目指すならば、お客様に先回りして商品サービスを考える先行的な開発努力が大切です。
商品サービスがもたらす価値とはお客様に対することです。決して世の中のためといったことではありません。我々、商売人は、お客様の“ご購入”を通じてしか真の意味で世の中に貢献できないということをお忘れなく。
商品サービスの価値、続いて価格の順で勝負しようとしていますか?
お客様のご購入を通じて世の中への貢献を目指していますか?