【第497話】成長場面で大切な感情と勘定のマネジメント
「次はもっと大きくなるので、覚悟して準備していきたいと思っています」と社長。次なる成長ステージ、次の挑戦はもう一段、高いところになるため、そこで求められる難易度も高くなることを良くご理解されています。
成長も色々、同程度の難易度で規模的な拡大を成長と呼ぶこともあれば、難易度の階段を上っていくことを成長と考える経営者もいらっしゃいます。
こうした横の成長と縦の成長は、どちらが良いというものではないため、それは経営者次第といえることですし、あるいは既存事業がどういった成長周期にいるかといったことも考慮すべきことです。
ただし、一つだけハッキリと言えることは、横だけでいつまでも成長できることは絶対に無いということです。
ですから、本質的な成長スパイラルを目指そうとするならば、いずれ、横から縦の成長を目指さなければいけないタイミングが必ずやってきます。
ではそのシグナル、横成長の赤信号がどのように灯るかといえば、それは収益性です。
ですから、売上ではなく収益性が落ちてきたならば、それはもう既存事業の成長サイクルが陰ってきたことを意味していると見るべきことです。
ちなみに、収益性とは利益率のことです。一般に売上が増えれば利益も増え、売上が減れば利益も減る…と思われがちですが、そうでもありません。
それは、収益構造が変わらなければそうなのですが、構造的に成長していたならば、売上を減らしながらも利益が増えるといったことが起こり得ます。
それがある意味、事業構造としての成長です。従業員一人当たり売上高、付加価値生産性、売上高利益率…こうした生産性指標を常に意識しておくことが大切です。
ところが面白いことに、これまでと違う「新しいこと」に取り組んでいるだけで、それを成長への挑戦と考えてしまうということが往々にして起こります。
自社にとって「新しいこと」。それは心躍ることですし、どこか挑戦している感もあることです。
こうした際の“感情”というのは、挑戦している、頑張っている、正しいことをやっている…と思えてしまうため、ある意味でブレーキが利きません。
さながら、この先に直線が続くかのごとく…、アクセルだけが踏まれ続けます。
経営においてアクセルとは資金投下です。ですからアクセルを踏むというのは、おカネを使うことに他なりません。
ちなみに、おカネを使う…というのは一般に心理的負担を強いられることです。ところが、こうした正義のための支出は、感情的に気持ち良くなってしまうため、留めなくなってしまうということが起こり得ます。
もっと言えば、何としてもやりたい…と感情的になりがちです。
忘れていませんか? 経営者の仕事は採算を創ることだということを。
それは、名声やカネ儲けといったことではなくて、カイシャというバーチャルな生き物を存続させていくための条件ですし、従業員とその家族を守っていくことでもあります。
それが、本当にやりたいことなのであれば、それを採算に乗せるのが経営者の仕事です。やりたいことのためにおカネを使う…だけであれば、それは趣味と呼ぶべきことです。
採算を創る、それは感情を勘定で制御できるかどうか…に懸かっています。勘定は冷静で冷淡ですがそれが事実です。
成長をけん引するのは経営者の情熱、想い、志…そうした感情的なことに他なりません。ただし、勘定を無視して感情が先走ってしまったとしたならば、それは一瞬、綺麗に見えることがあるかもしれませんが、存続の可能性を狭め、いずれ周りを不幸にするということをお忘れなく。
新たな挑戦は縦になっていますか?
冷静に挑戦の先に採算を目論んでいますか?