【第496話】次なる打ち手を成功させる期待値醸成の経営実務
「もっと大風呂敷を広げた方がいいんでしょうかね~?」と社長。銀行からの資金調達にあたって、銀行さんの反応が鈍いことに業を煮やされていました。
ご相談いただきましたので、事業計画書とプレゼンをお聞きし、一つ質問させていただきました。
「銀行さんから何を“期待”されているとお考えですか?」
こちらのプレゼン、昨今、流行りのキラキラ系ビジネスピッチ。社会課題の解決、地域の発展、産業の未来…。
確かに素晴らしい経営意識ではあるのですが、今でも相当に大風呂敷状態であるところに加えて、銀行が分かってくれないならば、さらにもっと広げてみては…という訳です。
当然、それは違う…ということをお伝えしています。
では、経営者が銀行から期待されていることは何なのかといえば、その答えはとてもシンプルです。
それは「返済」です。つまり、借入金を計画どおり返済できるかどうかを銀行は聞きたいと考えているということです。
当然、経営とは未来のことですから、やってみなければ分からないことであることは言うまでもありません。
ただし、だからこそ、銀行はその分からない未来について、この経営者がどこまで考えているのか、客観的に見通せているのか…ということを聞こうとしている訳です。
ですから、ここで銀行にプレゼンすべきは、この計画が地に足の着いた実行性ある堅実なものであり、むしろほぼ実現した未来であるかのように説明しなければならないということです。
そうした銀行の期待に対して、これはやってみなければ分からない壮大な挑戦なんです、体当たりで挑みます…とイキってみせたところで、それは違うという訳です。
このことをご理解いただき、こちらの経営者は銀行から予定の融資を受けることができたことは言うまでもありません。
昨今のキラキラ系ビジネスピッチは、投資家向けとお考えください。投資家が経営者に期待すること。それは「成長」です。
ですから、このビジネスの成長はこんなにキラキラです…というプレゼンになりますし、成長への期待に応えるという意味で、実務的には株価形成を念頭に置いた情報発信だということです。
こうしたプレゼンを見て、「こうやるのか」と勘違いして銀行に行けばどうなるか…。それは期待されていることが違いますから、お相手の眉間にしわが寄るのも当然なのです。
経営者は期待を生み出す存在です。自社の従業員には、未来に対する期待を。お客様には商品に対する期待を。
ですから、どういった期待を醸成するか…経営者の腕の見せ所です。
経営者が醸成する期待とは、夢や理想といったことではありません。ましてや情熱や意気込みといったことでもありません。
では何なのかといえば、従業員に対しては自己成長と給与テーブル更新への期待、お客様に対しては商品サービス向上への期待、銀行に対しては返済履行への期待、株主に対しては株価と配当への期待です。
経営者が示す期待の醸成とは、“期待感”というよりも具体的であるという意味で“期待値”です。具体性とは、いわば約束に近いものであって、その約束を守るために必死で粛々と努力することの宣言でもあるのです。
誰のどんな期待に応えようとするか、どんな期待を醸成しようとするか。夢や理想、情熱や意気込みを具体的な“期待値”として醸成することが大切です。
御社の経営はどんな期待に応えようとしていますか?
期待される存在になろうと具体的にどんな努力をしていますか?