【第491話】存続発展したければ“市場の失敗”に飲み込まれるな!
「良く分かりましたね。はい、実際そう言われてしまうんです」と社長。地元では古くから知られるおなじみの企業、とあるサービスを提供していますが、そうしたサービスが足りていないであろう地域向けに専用の移動車まで作って、従業員を派遣していました。
そしてサービス提供後、定価に対して破格にも関わらず「〇円です」とお伝えするとお客様からこうしたお声が返ってくるのです。
「カネを取るのか…」と。
普段、相応の代金を頂戴して提供しているのと同じサービスです。さらに、わざわざ専用車を作って、スタッフの移動時間も掛けて、サービスを提供しています。
それなのに、お客様から感謝どころか文句を言われてしまう。こうしたことが、実際に起こり得ます。
社長は、若き後継者ながら、その腕は確か。スタッフさんも実力者揃いで、そのサービス自体に問題がある訳ではありません。
むしろ、定価で毎日「ありがとう」と多くのお客様から感謝されている優良企業です。
それなのに、一方のサービスではカネを取るのか…と文句を言われます。スタッフさんも悲しいやら悔しいやら。
なぜ、同じサービスであっても、こうした違いが生まれてしまうのでしょうか。そこには純然たるビジネスとしての構造の違いが存在します。
ですからこうした構造の違いをお伝えした上で、「本当にやりたいビジネスはどちらですか?」と社長に問えば、「やっと分かりました」とのことでご自身の目指す道を歩み始めました。そして6年経った現在、以前よりも増して、大変繁盛されています。
どのような商売も「商品サービス」と「お客様」の組合せで定義されます。ですから、同じ商品サービスであってもそのお客様が違えば、商売としては違う商売だということです。
そして、ここで大切になってくるのが「お客様」です。ここでいう「お客様」とは、個人・法人、男性・女性、大人・子供…といったことで表現できることもあります。
こうしたハッキリと区別できるようなようなことは概ねデモグラフィック基準と呼ばれる顧客属性を現します。
一方、お客様の趣味嗜好、ライフスタイル、価値観、信念といったことはサイコグラフィック基準と呼ばれる顧客属性です。
特に、「ビジネスはお客様の問題解決である」という文脈において、“問題”の質が肝心です。
例えば、お客様の問題意識が、「もっと健康になりたい」といったことであったならば、「健康な水」は蛇口からの水よりも高値で購入される機会が生まれます。
一方、お客様の問題意識が「喉が渇いて死にそう」であったならば、事情が違ってきます。こうした場面で水は必需財であり、これでカネを取るのか…という感情が生まれます。
このように顧客需要が強すぎるとそれを商売にするなど言語道断という抵抗感が生まれ、支払い意欲が低下することによって採算が成り立たないビジネス領域が存在します。
こうした自由な取引に任せておいても上手くいかないビジネス領域は「市場の失敗」と呼ばれ、主に行政が税金によって補填しながら担ってきました。
こうしたいわばそもそも不採算な事業領域に、間違って迷い込んでしまう経営者が増えています。
迷い込んでしまう原因が、経営者ご自身の承認欲求や自尊心であったならば、あなた一人でやるべきことです。そもそも食えないのですから、周りを巻き込むべきではありません。自分がタレントになりたいのならば、それはご自身一人でやるべきことです。
経営者であれば、ご自身のみならず、ご家族、従業員とその家族が食べていけるようなビジネス領域で生きていく覚悟が大切です。それを決めるのは商品サービスだけではなく、どんなお客様と共に商売を創り上げていくかに懸かっています。
間違って“市場の失敗”に迷い込んでいませんか?
ご自身ではなく、お客様への貢献を販売していますか?