【第490話】経営者が降りてはいけない意地と矜持の玉座

「新工場、Goです」と社長。〇十億円にも上る大規模投資、いわば大勝負です。偶然にも打合せ中に、待っていた自治体からのGoサインがあり、社として設備投資の決定が下されました。

 

当然のことながら、そうそう度々あることではないため、百戦錬磨、徒手空拳の社長であっても、心荒ぶる瞬間です。

 

新たな事業機会というのは常に生まれ続けています。価値観の多様化、技術革新、産業構造や流通構造の変化、情報化、都市化、高齢化、国際化…。

 

世の中は少しずつですが日々変化していて、その変化は常に新たな事業機会をもたらします。

 

仕事の量という意味でも、日本は輸入よりも輸出が多い“純輸出”の国ですから、国内の富は増えています。そう考えれば、何らかの仕事はありそうです。

 

あるいはそもそも論として、人々が生きていくために必要な仕事をみんなで手分けしていると考えれてみれば、世の中に何らかの仕事はあって、その仕事の量というのも、ある意味で十分に存在するはずなのです。

 

ただし、こうした世の中の変化の本質的な部分を取り出してみれば、それは“分化”です。

 

社会の仕組みが複雑なものへと分かれることで組織、企業が分岐発展していき、さらに形態や機能が特殊化し、企業独自の特異性が確立していくことです。

 

事業機会をとらえる際、こうした「分化プロセス」にあるということを知っておけば、大切なことに気付くことができます。

 

それが、専門性です。

 

ここで専門性とは、「こういうことができる」という能力的なものです。そして、経営という視点からやや中長期的に見れば、こういう仕事をしていく、反対にこういう仕事はしない…といったことで「専門性とは自らの意志で培っていくもの」でもあります。

 

こうして培ってきた専門性が一定レベルに達すると仕事をもらえるようになります。さらにその専門性を高めていくと新しい仕事を創れるようにまでなっていきます。

 

その道で著名な企業の経営者とお会いすると感じる重いオーラは、こうした専門性を培ってきたことの自負心、その道を切り拓いてきたことの“矜持”からくるものです。

 

そして当然のことながら、事業を永く続けていこうとすれば、その事業を採算に乗せていかなければなりません。

 

日々刻々と変化する顧客ニーズにどのように専門性を活かしていくか…。採算づくりにはこうした用途開発的な発想が欠かせません。

 

こうした用途開発発想が、いわゆる事業アイデアということです。培ってきた専門性を“意地”でも仕事にしてやろうとする気概です。

 

こうした一ひねりがビジネスに採算をもたらします。専門性の高さもさることながら、この応用度が付加価値の源です。

 

専門性を培ってきたことに対する矜持、専門性を応用して採算をつくっていくことに対する意地。

 

世の中の変化に対応しつつ、永くお客様の期待に応え続けようとするならば、専門性と採算性は経営の両輪です。

 

この場所は、いわば経営者の「意地と矜持の玉座」であり、経営者である限り、この玉座から降りてはならないことは言うまでもありません。

 

未来ある若き経営者が、「儲けようと思っていない」といった発想から、やりたいことの採算化を諦め、募金で活動を続けているような経営をお見受けします。折角の専門性が最後の最期に生かせず、仲間との単なるイベント運営に留まっているのはとても残念なことです。

 

経営者であれば、専門性を培って採算を創る、その意地と矜持が大切です。

 

迷わずに専門性を探求していますか?

採算こそ腕の見せ所、もう一ひねりしてみませんか?

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