【第408話】大勝負を成功に導く目標設定の考え方
「こうした新事業に取組み、〇年までに×ヵ所の展開を目指します」と社長。新たな大勝負に出るにあたって、現時点での構想をプレゼンいただき、最後をこう締めくくられました。
昨今、ビジネスピッチや事業プレゼンで、こうした意気込み的な目標設定を耳にすることが増えています。
経営において、高い目標を掲げることはとても大切なことです。ただし、その目標とは、こうした単なる数字だけを意気込み的に掲げることとは違います。
なぜここで、そんな細かいことを必死でお伝えしようとしているかといえば、それには理由があります。
これまでに、そうした企業がどうなってきたか…ということです。どうなってきたかといえば、ほとんど確実に足元をすくわれて倒産という憂き終焉を迎えます。
実際、「店舗数日本一の焼肉店を目指す」と目標を掲げていた企業は重度の食中毒を起こし表舞台から消えています。こうしたことは枚挙に暇がありません。
なぜ、こうした意気込みを数値目標にしたビジネスピッチが増えているのでしょうか。まず、こうした数値目標のビジネスピッチが聞かれるのは、ベンチャー、アントレプレナー、起業家…といった表現がなされている場に多いということです。
これは言い換えるならば、欧米的な経営意識だということです。欧米的な経営における経営者とは、株主からの依頼を受けて事業を経営し、一気に成長させて上場したり事業売却することで、株主の投資資金を回収してエグジット…という経営です。
これはある意味で、経営者という仕事のお客様が株主・出資者だということです。株主から資金を集め、そこから役員報酬を得ながら、事業を成功に導いていくことを託されるという立場にあります。
このため、経営者は株主に対して「このスケールを目指します」というコミットメントを求められ、その数字が達成できていなければ、株主は「約束を果たせていないではないか」と文句を言うことができる明確なラインという訳です。
ですから、ビジネスピッチでは、目標が「〇年までに×億円」や「〇年までに△市場へ上場」といったこと、すなわち株主へのコミットメント目標が書かれているのです。
実際、欧米的な経営意識の経営者というのは、自分は株主のエージェントであるという意識が強いものです。
こうした経営の最終的な目標は、株主の投資資金のエグジットであり、お客様からの売上利益をコツコツと積み上げていくというよりも、むしろ事業の成長性や将来性を株式市場に信用させることで、株式市場から稼ぐことを目指しています。
こうしたところが正体なのですが、マネーゲームのエグジットが目標と知れると恥ずかしいので、「古い業界を変革する」、「地域に未来を」、「世界を変える」といった正義感あふれる後付けの壮大な事業意義でツジツマを合わせようとします。
一方、日本的な経営意識はといえば、自分の家族から始まり、従業員やその家族が食っていけるようにと考えるのが経営者の仕事といえるでしょう。
このためには、顧客・お客様が必要であり、経営者は従業員と一緒になってお客様のために働くという構図が生まれます。お客様は稼ぐためのターゲットなどではなくて、自社事業の存続発展のパートナーなのです。
御社のこの大勝負は、何に挑戦しているのか…、というところを間違えてはなりません。
この大勝負は、株主のためですか、お客様のためですか…。
経営者は、利害関係者の調整役でもありますから、働くという意義は、株主のためでもあるし、従業員のためでも、そしてお客様のためでもあります。ここで大切なのは順番です。従業員、お客様…があってはじめて株主に応えることができるという順番です。
そうであるならば、従業員やお客様が奮い立つような目標設定が必要であることはいうまでもありません。ですから、目標は例え数字で書かれていたとしても、そうした質的な意味が大切なのです。
お客様に聞かれても大丈夫なビジネスピッチになっていますか?
目標は従業員やお客様が心奮い立つものになっていますか?