【第314話】中小ベンチャーにしかできない需要創造の基本戦略
「おかげで、フワフワしていた点がカチッカチッと音を立てて繋がって行く感覚を得ております」――。
とあるご縁で、新サービスの今後の展開についてアドバイスさせていただいた社長からご丁寧なメールが届きました。こういったご連絡は、コンサルタント冥利に尽きる嬉しいことです。
さて、まず初めに、多くの中小企業が新商品・新サービスの企画開発・販売にあたって間違います。
どのように間違うか…。大企業的なアプローチ、経営学やマーケティングの教科書的なアプローチをしてしまうといえば分かりやすいでしょうか。
具体的に、どのように…かといえば、分析的にアプローチしてしまうということです。
例えば、大手企業の新商品の企画開発の場合、いわば分析的にSTPマーケティングに沿って戦略が立てられます。
企画書は、まず大きな市場を対象に軸を設けて、その市場を分割セグメンテーション(S)し、ここでできたセグメントのどこに的を絞るのかとターゲティング(T)し、その的となるセグメントの中で競合他社の商品・サービスとの違い、差を意図的に設定しポジショニング(P)を図るというものです。
これ自体、戦略策定プロセスとしてとても優れた強力なアプローチであることは言うまでもありませんが、なぜ、こういったアプローチが必要になるかということを考えて欲しいのです。
それは、大手企業における新商品開発というのは、開発に投じる規模も大きいため、販売が一定規模見込めるかどうかが大切であり、それを見通せていなければ、決済は通らないからです。
実際、そのためのマーケティングリサーチの専門部署や、それを代行するリサーチ専門企業もあるほどです。
こういった分析的なアプローチというのは、資金提供者である、株主や銀行からも求められることであり、よって、一般に事業計画を書いていく上でも必要になります。
ただし、ビジネスの企てが必要以上に分析的になるとどうなるか…ということを想像していただくとお分かりいただけると思います。
ご想像のとおり、論理的ではあるものの人間性を喪失していきます。
これはある意味、市場というのが突き詰めれば人間である以上、顧客不在のマーケティングといえる状態であり、それで販売が進むはずがないのです。
そもそも、論理的なアプローチというのは、人間というややこしい生き物を単純化することであり、単純化することで芯の部分を捉えられる反面、ややこしい複雑な部分が切り捨てられることとなります。
このため、大手企業のアプローチは、この芯の部分に向けられ、例えば、企画開発のテーマは「レンジでチンして2分で食べられるご飯」といった物理的に新しいという設定になります。
一方、我々が拾うべきところは、いわばこの人間の「ややこしい」ところです。そうであるならば、企画開発のテーマ設定は「〆の一口ご飯」といった心理的な設定になるはずです。
我々、中小ベンチャーがお客様に応えるとは、いわばこうした「ややこしい」ところを丁寧に拾っていくことであり、それは、好み、気持ち、心情…といったお客様の“心”を市場と捉えることでもあります。
市場の移ろいを全く見ようとしないことは論外として、市場を分析的・論理的に見ようとしすぎることで見失ってしまう部分が、実は大切なことを忘れてはなりません。
面倒がらずに、市場・顧客を人間として見ようとしていますか?
その企画は、お客様の心に応えようとしていますか?