【第310話】ニューノーマルでも変えてはいけない「働き方」の根本価値
「本当は、社長になりたくなかったんです…」というお話を耳にすることがあります。社長の悩みは尽きません。
そんな困難も、売上さえ立っていれば何とか我慢もできようものの、このコロナ禍にあって、数字面でも陰りがでると、データが客観的なだけに気が滅入るものです。
ここで、昨今、社長、経営者が覚える不安の根本的な理由を考えてみると、それはとてもとても根深いということが分かります。
その理由は、この経営環境の変化が、近代経営史において「初めてのこと」だからです。どのように初めてか…といえば、こういうことです。
これまでにも、ニューノーマルと呼ばれたような経済危機が何度も起こっています。例えば、ブラックマンデー、バブル崩壊、リーマンショックといったことです。
しかし、これらは全て金融経済を発端としてきたことであり、いわば強欲が生み出した人災です。オイルショックは…といえばこれも戦争を起点としている点で人災です。
ところが、今回の新型コロナによるニューノーマルは、金融的なショックではなくて実態経済で大問題が勃発したのです。
このため、経営者は、「新型ウィルスの蔓延…、これからの事業経営はこんなリスクまで負わなければならないのか…」と大きな不安を抱いているのです。
「私は楽天家だから…」という社長はむしろ注意が必要です。このような歴史的な危機にあって自分で考えることを放棄しているようでは、未来などありません。
こんな状況にあって、会社の経営、事業の運営としての「働き方」が課題です。
そんなこと分かってる…、という声が聞こえてきそうですが、ここでお伝えしたい「働き方」とは、テレワーク、オフィスレス、在宅勤務、時差出勤、オンライン会議…といった手法のことではありません。
「働き方」の本質的な変化です。ジョブ型への移行などと言われることもありますが、これはいわば日本的なファミリー文化を放棄して欧米的なパートナー文化に移行することを意味しています。
つまり、経営側と労働側は、雇用契約による関係、ジョブ・タスク単位での業務委託関係、命令を出す側とそれに従う側の関係…、こういった関係の在り方の変化を迫っています。
ニューノーマル時代なんだから…とあっさり受け入れるのか、それとも、やはり当社は…とこれまでの企業文化、社風を守ろうとするのか。この圧力に対して、経営者としてどう対応していくかが問われています。
大企業であれば、マネジメントスタイルは放っておいても欧米化していきますし、運営がおおむね仕組みで動いていますから、ニューノーマルを推進すればよいでしょう。
しかし、中小・ベンチャー企業が安易に大企業のニューノーマル施策をマネしてはなりません。最も大切な価値観、社風、会社としての体を失うのは明らかです。
中小企業の存続発展は、そこで働くメンバー全員の生命力を一致団結させるファミリー文化の死守にかかっています。
これは実にシンプルな話です。名前も知っていて目の届く人員、人間同士のつながり、このファミリー文化の下で共通の目的や価値観を育ててきたことが強さのベースにあるからです。
何も難しい話をしているのではありません。ジョブを積み上げたところで、いずれ仕事にならなくなるというお話をしています。共通の目的や価値観、企業文化があるから、それが新たな仕事を生み出すのです。
ニューノーマルだと、テレワークのジョブ型を導入して、ウチは先進的だと外見をとりつくろうのか。あるいは、地味に見えるが企業の根幹、企業文化と人を育むために出社できるようにするのか。しっかりと考えた上で決めるべき大切なことです。
従業員が育つことを経営者の喜びと考えていますか?
企業が生き物であり続けるためにファミリー文化を守ろうとしていますか?