【第208話】新事業を成功させる後発参入意識とは
クライアント企業における新たな収益軸の立ち上げを、弊社では、“新事業”と呼んでいます。あまり“新規事業”とは言いません。
この理由はとても単純です。新規事業というと、「クライアント企業にとって新規の取り組み」のニュアンスが強いからです。
企業側にとって新しい取り組みであるかどうかなど、お客様にとってはどうでもよいことです。むしろ、これから参入したところで、お客様はもっと昔からその事業に取り組んできた先発企業を選好するでしょう。
事業として新たな収益軸を立ち上げるというのは、「新たなお客様に対して新たな価値を提供すること」です。
多くの新事業が失敗に終わるといわれます。鳴かず飛ばずのうちに燃料切れで止まってしまうのです。一方、存じ上げている社長の多くが、手掛けた事業のほとんどを一定の巡航走行にまで持ち込みます。この差は一体なんなのか…ということです。
実はその成否を分かつのは、事業を開始する以前に、ある程度勝負が決まっています。
失敗する社長は「自分にとって新しい」を新事業と呼び、成功させる社長は「お客様にとって新しい」を新事業と呼んでいるからです。
そして、この意識の違いは、“準備の違い”となって現れます。
今の時代、足りてる時代…を前提とすれば、要は「大概のコトはすでに在る」のです。そして、この意識に至ると、あることに気が付くはずです。
「足りてる時代、新事業とは常に後発参入である」ということです。
どれだけ自分たちが新事業だと叫んだところで、お客様にとっては、類似の製品・サービスが既に存在しています。事業を企てる我々側から、いくら“新しい”とか“違う”などと叫んだところで、お客様にとってそれは「はぁ??」でしかありません。
大切なことなので、改めてお伝えすれば、「我々が頑張って準備している新事業であっても、お客様から見れば、あまた在る類似製品・サービスへの後発の参入者でしかない」ということです。
これは事業立ち上げ準備にあたり、極めて大切な意識であるということは、お分かりいただけるものと思います。つまりは、「製品・サービスの“新しい”だけで、ビジネスとして勝負できると思いますか?」ということです。
失敗する社長は、“新しい”とか“違う”などと言いながら、既存のレールに乗って競合他社の後ろから走り始めます。同じレールを違う車両で走ることを“違う”といっています。
一方、成功させる社長は、その点を重々承知で、“準備”の段階で別の頭の使い方をします。違うレールを敷くことに意を注ぐのです。そして、その上に新たなレールに最適化された車両を載せようとします。
もうお分かりと思いますが、レールとは「市場の切り出し方」です。そして、車両とは「製品・サービス」です。
足りてる時代、製品・サービス自体の新規性はもちろん大切なのですが、モノやサービス的には既に足りていることを前提とすれば、大切なのはそれ以前、どのように新しい市場を捉えるか…。市場の切り出し方こそ新事業構築の核なのです。
失敗する社長は、顕在化した既存の巨大市場に、わずかに改良を加えた製品・サービスで乗り込み撃沈します。
成功させる社長は、潜在的な新市場を新たな線引きで切り出し、そこに最適化された新たな製品・サービスを投入します。新市場創出の概念的定義がまずあって、製品・サービスがそれに続く…という準備構造になっているのです。
足りてる時代、新たな収益軸を立ち上げるというのは、新たな市場を独自に切り出すことです。頭の使い方を製品・サービスだけでなく、新たな市場を切り拓く意識を持って新事業を構築していくことが大切です。
御社が育てる新たな“市場”は定義できていますか?
その上で、製品・サービスを最適化していますか?