【第207話】本物経営者が経営計画でしていること
「やっとスタートラインに立った感じです」。建設した新工場をご案内いただきながら、某社長が仰います。
社長は、何年もかかってオリジナルな商品の開発に取り組み、それらがやっと満足いく仕上がりになり、販売を強化したことで着実な売れ行きが見え始めてきました。そのため、もう一段の量産化に向けて新工場を建設されました。
これまでのご苦労を存じ上げているだけに、初めて広告を出して大きな受注が取れて、イベント的ではない売上が積み上がるようになり…、未来の詰まった新工場を歩くと、そういったこれまでの頑張りに頭の下がる思いがします。そんな新工場ですから、これから…について、次なる打ち手の計策にも熱が入ります。
仕事柄、多くの経営計画や事業プランを拝見します。もちろん、日々、それを考えて実践している訳ですから、改めて“計画”などと言う必要もないのですが、やはり一つの区切りとして、宣言として、そして紙に書くことで意識化されることには大きな意味があります。
計画を拝見した時点で、計画のお話をお聞きした時点で、「まずいな…」と感じる計画には極めて類似する共通点があります。
それは、とても単純なことです。「逃げてる」のです。その逃げ方は「負けを延期している」という感じです。
既存事業の不調を、業界全体が沈んでいる、地域全体が悪い、主要顧客の商売が振るわない、材料コストが上がった…、といった経営環境分析で説明されます。そして、こう続きます。「こういった経営環境の変化に対応して〇〇を導入します」と。経営計画の中身が手段レベル、やり方だけなのです。
そういった経営環境にあることも確かなのでしょうが、まず認めなければならないのは「負けている」、「負け始めている」ということです。
これは、商売の核となる商品・サービスそのもので負けているということです。他社に置いていかれているのです。まずは、その根本に立ち戻って、経営を立て直さなければならないのに負けを認めず小手先の手段…。これで状況が好転することは絶対にあり得ません。
一方、本物社長が描く計画は全く違います。どこがどう違うか…、それもとてもシンプルです。そこには自分たち独自の「成功の定義」が在ります。やり方レベルの前にもっと大切なモノがあるということにお気づきです。
この「成功の定義」は、夢といったことではありません。具体的かつある意味で必達目標でもあります。これを達成していかなければ自分たちにその先はない…、という理想と現実の両面を含んでいます。
「負けを延期」する経営を続けていると、とても嫌な症状となって現れてきます。「みんなで業界を盛り上げよう」、「地域のために一致団結していこう」、「もっと社会に役立つ仕事をしよう」…などと言いながら、大人数の懇親会に出席するようになります。
自社のウリを商品・サービスから業界改革にすり替えて仕事を貰おうとし始めるからです。こうして、壮大な夢とチープな商品・サービスという妙にアンバランスな商売ができあがります。
そして、貰うためにお客様の質が下がり、よって仕事の単価も下がり、いずれはアルバイトみたいな仕事に堕ちていきます。もうこうなれば事業経営、プロの仕事と呼べるものではなく、サークル活動みたいなものでしかありません。
本物の強さを持っている経営者は、これまでに自分で決めたいくつかの「成功の定義」を達成されています。達成できてきたのは、その達成を目指したからです。そして達成して、また「成功の定義」を更新してその先に向かおうとされています。これがその世界でプロの仕事人として在ろうとしている人の姿です。
しかし、「負けを延期」する経営者は、壮大な夢を語りながらいつまでもサークル活動を続けます。アマチュアなアルバイトの世界を生きているので、いつもどこか涼しさが漂います。
「まだ負けてない」と思いたいため、いつまでも真剣勝負を避けるので本物の自信が育たず、結果、仕事を貰うためにまた夢ばかり壮大になり、商品・サービスは一層チープに…という引き返すことのできない一方通行を進んで行ってしまうことになります。
御社の経営計画には独自の「成功の定義」が在りますか?
仕事人としてプロの世界を生きていくことを計画していますか?