【第206話】新事業を高収益化するフィナンシャル設計の進め方

ビジネスのリスクで最も怖いのは、売上リスクです。売れてさえいれば多くの問題が解決すると思われているほど、事業経営における主たるリスク要因といえるでしょう。

 

こういった文脈で言われると、フムフム…となってしまいそうですが、よくよく考えてみると、売上や利益といった数字は経営そのものです。

 

念のためにお伝えしておきたいのですが、売上利益が最も大切といった経済主義な話をしているのではありません。あくまでも経営という実態があって、それを数字に写像しているのですから、実態と数字は一対であるという意味で、経営そのものと申し上げています。

 

ビジネスには、経営スタイルによって異なる二つの売上リスクがあります。

 

まず一つ目は、「この仕事やって欲しい」と言われて工場を建てたものの、予定の仕事が入ってこない。あるいは、販売数は予定のとおりであっても、定期的に値引きされていくため、売上が減っていくといった売上リスクです。

 

こういった経営スタイルは、いわば請負受託型ビジネスであって、この売上リスクはビジネスのイニシアティブを客先が握っていることに起因する構造的なリスクです。

 

このケースは、取り組むに値する魅力的な売上見通しが先にあるため、乗ってしまいやすいのですが、冷静に考えれば魅力的な売上だからこそ、そのとおりにいかない可能性の方が高いともいえます。

 

つまり、その魅力的な売上見通しから下振れする側に厚いリスク分布になっていると考えておくべきでしょう。

 

もう一つの売上リスクは、「この商品が売れるはず」と企画開発したものの、予定の数量、価格で売れないというリスクです。

 

こちらの経営スタイルは企画提案型ビジネスであって、ビジネスのイニシアティブをこちら側で握っている反面、あらかじめどの程度の売上が立つのか…、売上分布さえ分からず、そもそも本質的にリスキーという売上リスクです。

 

この売上リスクは、それほど売れないかもしれないけど、すごく売れるかもしれないというアップサイドリスク、さらにそのビジネスが次につながる可能性を秘めているポジティブな売上リスクでもあります。

 

企画提案型ビジネスの開発費は、請負受託型ビジネスの設備投資と比べて極めて小さいことが大方です。初期投資が小さくて済むということは、投資リターンを大きくしやすいということです。

 

経営は投資です、と常々申し上げております。この意味は、売上に対する利益を最大化するという損益計算書的な発想ではなくて、投資に対してリターンを最大化するというフィナンシャルな着眼です。

 

リターンの確実性は高いけど初期投資の大きい請負受託型ビジネスに賭けるのか、リターンは不確実だけど初期投資の小さい企画提案型ビジネスに賭けのか…、フィナンシャルな設計は、経営スタイルによって全く異なります。

 

請負受託型ビジネスであれば、予定の数字を追う単年度の「会計ベース」でも良いとして、企画開発型ビジネスであれば、成長期間で投資リターンを最大化する「投資ベース」で建付けしていくことが大切です。

 

経営が投資である以上、売上リスクがあることは当然ですが、そのリスクは経営スタイルによって異なります。まずはその取り方自体に経営者の覚悟が問われているのです。

 

すでに多くの自己資金、内部留保があるということならば、その資金運用の一環として売上リスクが小さいけど初期投資が大きい請負受託型ビジネスを始めてみるのも良いでしょう。

 

しかし、足りてる時代、淘汰の時代、変化の早い時代…、どこに向かおうといずれ不確実なのです。独自性高く本物の成長発展を望むならば、まだ見えない売上リスクに初期投資を小さく賭けてみることこそ、不確実時代の新戦略として大切な筋です。

 

御社の新事業は企画提案型ビジネスを志向していますか?

投資リターン最大化の視点で採算をシミュレーションしていますか?

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