【第194話】強い事業に不可欠な二つの“価値”
世の中を見渡せば、「よくここまで考えたな」という商品・サービスがあまたあります。その多さに、感心を超えて尊敬の念さえ覚えます。
一方で、こういった表舞台に立っている商品・サービスの裏側には、鳴かず飛ばずならまだしも、投資回収もままならず在庫の山となって日の目を見ることなく沈んでいったモノたちも同様にあまたあります。
ちょっとした差が、こういった大差になってしまうのがビジネスの世界というものです。この大差を生む要因というのは、もちろん時代背景やタイミングといったことと無関係ではありません。しかし、優れた社長というのは、こういった歴戦の中にあっても「大きく負けない」のです。それは何故か…。
優れた社長は、商売として採算性を成り立たせるために必要な商品・サービスに求められる条件を良く理解されています。つまり、「勝てる状態にまで持ち込むための準備努力」がどういったものなのかを、永く商売を続ける中でしっかりと感じ取っていらっしゃいます。
ところが、残念な社長もいらっしゃいます。今世の中に在る商品・サービスだけを見て「あれ位ならウチでもできる」といった見方をしてしまったり、あるいは、「これからはこれが流行りそう」といったことだけで商機を見てしまうのです。
こういった社長は、「今あるモノ」や「これから流行る」という、いわば「小学生にでも分かる市場」しか見えないのです。市場が見えているんだから失敗しないだろうと考えてしまうのですが、その結果…、という訳です。
このような意識で事業を行えばどうなるか…。意識で負けているので、常に先行・既存の商品・サービスの後塵を拝することになります。良いところまではいっているはずなのに売れない、負ける…、ということが起こります。意識レベルで足りてないので、頑張っても良くできたパクリ商品にまでしか仕上がらないのです。
これは、見ようによっては「意識で負けている」というよりも、「事業をなめている」、あるいは「お客様に甘えている」とさえ言えます。
強い社長が事業を拡大するにあたって大切にしていることがあります。それは、取組む意義、自社にとっての精神的な意味、社会的にどんな“価値”があるのか…といったことです。
これを一言でいうならば、事業そのものに挑戦すべき「Worth(価値)」を見出しているということです。ですから、もうその新事業はいずれやるし、成功するまでやり抜く覚悟ができているのです。
ところが、残念な社長も表面上は「Worth」を語ります。しかし、これが表面上であることを見抜くのはとても簡単なことです。もう一つの“価値”が準備できないからです。
それは、お客様にお買い求めいただく「Value(価値)」です。事業を事業たらしめるのは最終的には「お客様」です。ですから、自社の「Worth」を全うしていくためには、それをお客様の「Value」にまで転換するという泥臭い困難を超えていくことが不可欠です。
残念な社長も声高に「Worth」を語りますが、本気度が足りないためにお客様へ提供すべき「Value」にまで転換しきることができないのです。こうやって「立派な主張とショボい商品」の組み合わせができあがります。
そして、ショボい商品を売ろうとしますから、結果、素人相手に商売を展開することになります。このため、商売の体はだんだんと崩れていき、いずれその一時の「お祭り」は終焉を迎えていくことになります。
また、やっかいなのは、こういった表面上の「Worth」を、周りも褒めたりするから大変です。社長が事業家として褒められるべきは、誰もが困難と思った事業を創意工夫で黒字化させた時です。
事業の社会性や大義よりも儲けを…といったことを申し上げているのではありません。事業家として誇りをどこに持つべきかということを申し上げています。
事業に「Worth」を見出せるならば、それは何としても絶対に取り組むべきことです。そして、何が何でもお客様の「Value」に転換して世に問うていくべき、正に“価値”ある取り組みです。
「Worth」と「Value」、二つの“価値”を準備していますか?
取り組む以上、黒字化・高収益化を前提にしていますか?