【第130話】本物の成長発展を持続させるための黄金律
「企業の成長って、どこまでいけるんでしょうか?」
本物の、そして独自の成長を目指しましょうと常々お伝えしているため、こういったご質問をいただくことがあります。
この背景には、欧米圏、アジア圏、日本国内でも、いわゆる名門企業が次々と失墜していく姿を目の当たりにすることで、“成長発展の限界”を感じざるを得ない状況があります。
仕事柄、多くの経営者の方々にお会いします。そのため、少しお話をお聞きすれば、その企業が「成長モード」にあるか否かについては概ね察しがつきます。
ここでいう「成長モード」とは、新事業・新製品開発の順調さや、実際に売上・利益が上昇しているかどうかというよりも、むしろその可能性、潜在性を内に秘めた状態にあるかどうか、というところがポイントです。
ですから一方で、売上・利益は伸ばしつつも、質的には「衰退モード」の企業もあるということです。
まずもって、「成長モード」社長の第一の特徴は、自社の“アイデンティティ”に対する思い入れの強さとなって現れます。
社長・経営者にとっても、従業員にとっても、企業という「単位」というのは、とても重要な意味を持ちます。
会社とは、法律上の仮想単位であって、姿形を持ちません。そこで働く人達の心の中にあってこそ、はじめてその実態を帯びることになります。
「成長モード」社長は、その点に気付いておられます。ここで働くことに意味を与えるためには、その“ここ”をハッキリさせることがその起点になるということです。
社章・記章を佩用(はいよう)することを義務付けている企業が多いのも、こういったアイデンティティ形成に対する重要性の認識の現れです。
そして、企業は単なる人の集まりではありません。共通の使命・目的を持っているという点で異なります。ゆるい集まり……といった概念が企業経営で通用しないのはこのためです。
では、なぜ「成長モード」社長が“アイデンティティ”の形成や、それが崩れることを危惧するのか――。
その理由は実はとても簡単です。「従業員を大切に考えているから」です。
人間にとって、なんらかのコミュニティに属するということの影響は、とても大きなものです。ですから、「成長モード」社長は、そこで働く人の幸せのためには、その所属単位となる自社の“アイデンティティ”をしっかりと築くことが欠かせないと考えておられるのです。
先に、企業を成すためには、単なる人の集合に共通の使命・目的が必要であることをお伝えしました。社長が語る共通の使命・目的が「いくつも」あったら、従業員はどう感じるでしょうか。
これが、小規模事業を多角化・複合化していくマイクロ・コングロマリット型の成長が、早々に成長限界を迎えるシンプルな理由です。
あるいはまた、社長が自社の「代表取締役社長」という肩書を差し置いて、何か他の団体の肩書をもらって喜んでいる姿を見たら、従業員はどう思うでしょうか。
自社の社長という肩書を最高峰と考え、その影響力の拡張として他の団体の肩書があるとの主従関係を保つことが肝心です。
「成長モード」社長は、例え企業や事業が小さくても、自社の“アイデンティティ”を大切にします。これこそが、一緒に働く人々に対する経営者にしかできない最大限の敬意だからです。
そういった意味で、社長が「従業員の幸福」を口にできなくなった瞬間に、企業の成長は終わります。例え売上・利益が大きくなったとしても、質的に見れば既に成長は終わっているのです。
従業員が最も大切だと明言していますか?
従業員の居場所である“アイデンティティ”の形成に気を配っていますか?