【第546話】中小企業経営はパーパスよりもミッションが大切!?

「東日本大震災があり、地元に戻って地域活性化に貢献したいと考えています。そのために、地場産品を缶詰にしました」と若き社長。

 

当時、まだ20歳代後半。様々な可能性や選択肢にあふれている中、これからの長い人生を地域活性化に賭けようとされています。

 

頭の下がる志ですが、こと事業経営となれば、貯金が無くなる程度ならまだしも、その先もっと大きな失敗につながるリスクある選択です。

 

そうした心配をまず飲み込んで、「なぜ缶詰なんですか? この缶詰の特徴は?」とお聞きすると、「この地域の名産である〇〇を使っています」とのご説明。

 

質問を変えて「お客様がこの缶詰を買う理由は?」と聞けば、「地域の生産者さんを応援することができます」とのこと。

 

もうお分かりのことと思います。彼の頭の中は、問題を抱えた生産者さんの支援、地場産品の普及啓蒙、そうした地域活性化のための募金活動…だということです。

 

良いことをやっているんだから募金して…。募金活動ですから、この缶詰は募金者に配られる“赤い羽根”のようものです。ですから、そこに購入理由となる価格に相応しい対価性ある商品力が求められることなど意識が及ばないのも当然の帰結です。

 

心配は確信に変わりましたので、折角のご縁ということで少し助言を。「今のままであれば、直ぐに必ず潰れる」と。

 

昨今、新たな事業を起こそうという場、あるいは経営者を育てようといった場で、社会的意義や志といったことを求める風潮が高まっています。

 

事実、とある経営者は、経営者塾でそうしたことを習って経営計画という名のスローガン的なプレゼンを作ってこられました。ただし、彼は「あとは具体的なところですね」と、これだけで事業が回るはずがないことを理解されてましたので、大事には至りませんでした。

 

こうしたケースを度々見てきました。当然のことながら経営者の意識レベルを「飲む打つ買う」程度からもっと社会的意義レベルへと高めることはとても大切です。ですが、意識が高いだけで経営が回るはずもありません。

 

その理由を整理していきましょう。まず、商売などと言うものは、自分たちが食べていくため、それだけでも大変…というのが現実です。

 

そうした現実から時代は進み、皆がある程度食べられるようになり、暮らしが豊かになってくると、事業経営にも次のレベルで意識が求められるようになりました。

 

20年ほど前、経営学やビジネススクールで教えられていた経営理念はミッション(使命)、ビジョン(将来像)、バリュー(価値観)で構成されていました。

 

ここで最も上位概念はミッション、すなわち使命感でした。“自分たち”は何のために働いているのか…ということです。

 

ここに昨今、最上位概念として社会課題(パーパス)が据えられるようになりました。こうした風潮によって、経営計画が顕在化した社会課題の解決を担う…という下請宣言になってしまいました。

 

確かに立派な宣言ですが、これがその解決のためならビジネスや商品サービスは何でもよい、何なら普通でもよい…という間違った構図を生み出してしまっています。

 

理念とは自分たちが描き目指す未来のことです。それを自分たちの手で実現していくことを目指すことです。そうであるならば、自分たち…を起点にその実現を目指していかなければならないはずです。

 

大切なことなので総括すれば、商品サービスは結果的に社会課題を解決する手段となり得るものであることは不可欠ですが、それはお客様の購入を通じてしか実現されないこともまた知らなければなりません。

 

この意味で、商品サービスは経営そのもの、一種の「理念の表現型(フェノタイプ)」です。志が高いことは素晴らしいことですが、志だけが高いフツーの商品はビジネスとして未完成だということを理解しておきましょう。

 

高い志だけで募金を集めようとしていませんか?

商品サービスで理念を表現していますか?

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