【第542話】新事業選択が美人投票理論で失敗する理由
「みんな、これからは〇〇ビジネスが伸びるって言ってるんですけど、実際、どうなんですかね…」と社長。
なんでも、新事業を立ち上げようと決めてアイデアを探しているとのこと。まあまあご高齢ながら好奇心旺盛、次なる打ち手を画策されています。
こうしたことで情報を集めていると、どうしてもこうした“儲け話”のようなことが耳に入ってきやすくなります。
面白いことに、こうした筋のお話というのは、怪しいほど儲かりそう…、妙な魔力があったりするものです。
そして、その魔力から話が頭の中をグルグルと周っているうちに、みんなやってるんなら、やらないと損、だったら早く…になってきて、十分な検討もないまま飛び込み、あっという間に撃沈…ということが起こります。
もちろん、こうしたケガも高い勉強料だったと笑っていられるお財布事情であれば、それもまた経営者人生としての楽しみといえるでしょう。
しかし、そうした時間も資金も有限である以上、経営者人生、もっと上手くやるに越したことがないことは言うまでもありません。
当然のことながら、人の話に耳を傾けることは悪いことではありません。ところが、耳の傾け方次第では、魔力に堕ちてしまうことも有り得るところがまた難しいところです。
人の話に耳を傾けたことで失敗する…の原因は、他人基準でビジネスを選んでしまうことです。
その昔、経済学者のJ・M・ケインズは、株式市場の値動きを美人選びの「ミスコンテスト」に例え“美人投票”と説明しました。
それはどういうことかと言えば、株式市場で儲けようと考えるのであれば、自分が美人だと思う女性に投票するのでなく、より多くの人が美人だと思う女性に投票すべき…ということです。
つまり、株価は実力を反映して形成される部分もありますが、そうした多くの参加者の思惑の影響が大きい…ということを言い現わしています。
今となれば、株価がこうした参加者の思惑心理によって形成されていることは周知の事実であり、その分析は「テクニカル分析」と呼ばれ、様々な統計的手法が編み出されています。
一方、株価を企業や事業、業績や経済予測といった基礎的な情報で分析しようとすることは「ファンダメンタル分析」と呼ばれます。
つまり、ファンダメンタル分析は、企業や事業自体を分析対象とするのに対し、テクニカル分析はその周りの人がどう思うかを分析しているということです。
これらの分析法は、新事業アイデアの探求に面白い示唆を与えてくれます。
前述の社長は、世間に耳を貸すまでは良いものの、新事業アイデアを「みんながどう思っているか」とテクニカル分析してしまっています。みんながいいと言っているのであれば、やってみようかな…と。
こうした考え方が、顧客目線でもマーケットイン発想でもないことは明らかです。むしろ顧客不在の思考回路であり、あっというまに撃沈…は自明の結果なのです。
本物の新事業アイデアを探求しようとするならば、自社の思想、事業の型、商品サービスの特徴…、こうしたファンダメンタル分析的な思考アプローチが大切です。
昨今、革新的なサービス、世界を変える、まだ見ぬ未来、…といった派手なプレゼンをお見受けしますが、それらは株価形成のための美人投票誘導の心理戦、テクニカルアプローチであるということは知っておかなければなりません。
未上場の中小企業にこうしたプレゼンは不要です。自らがなすべき事業で粛々と商品サービスを磨き、お客様に選ばれ続けるレベルへと育て、地味ながらもファンダメンタルな道を歩もうとする意識が大切です。
新事業アイデアを「みんながいいと言っている」で選ぼうとしていませんか?
新事業アイデアは、自らの表現で考えてみませんか?