【第539話】高収益の実現に欠かせない付加価値と人件費の意味
「昔の方が良かった…」と長く勤めてこられた女性スタッフさん。庶務的な立場で職場を支えておられます。
ここは関東圏のとある生産機械商社。商社といっても製品を右から左だけの単なる商社ではなく、生産機械の納入に伴って客先で必要となってくる金型や治具等の設計まで一貫して行うことができる体制が構築されており、設計部のエリアでは、多くの技術スタッフがPC前でCAD図面を描いています。
こちらの女性スタッフさんに「昔の方が良かったと仰いますが、どんなところですか、ところで給料は上がってますか?」とお聞きすると、「昔は社内がもっと和やかだった、給料はとても上がってる…」とのことで口元がニヤリと緩みます。
日本では、勤続年数に給与が紐づけられていることが一般的です。これは、日本企業は、長期雇用を前提として、従業員を自社で育成していくという基本思想があるからです。
ですから、永く努めている人はそれだけスキルを身に着け、貢献のレベルも上がっていくため、よって給与も上がっていく…という考え方です。
一方、欧米では違います。欧米では経験やスキル、職種やその難易度によって報酬が決まります。これはある意味、給与というよりは報酬ですし、賞与は成果報酬という色合いが強いということです。
少し話がそれましたが、要は長く働いたからといって、同じ仕事、同じ職種をしていたのならば、報酬は上がらない…ということです。
もう経営者であればお分かりのことと思いますが、先ほどの女性スタッフさんの給与賞与を上げられているのは、会社が取り組んでいるビジネスの“付加価値”が昔よりも上がっているからに他なりません。
ここで付加価値を整理すれば、以下のように現わすことができます。
付加価値額 = 期間売上 - 外部購入価値
ここで外部購入価値とは、この付加価値額を生む期間中に費用として費消した原料や機械設備の減価償却費・保善費のように外部から購入したものにかかった費用のことです。
ですから、付加価値額とは企業努力によって得た価値額であり,ここから、経営者,従業員の賃金支払い等が行われることになります。
これをもう少しかみ砕いて理解すれば,二つの要点が見えてきます。まずは,付加価値とは仕入れた材料などを加工して製品にして販売した差額であるという点。二点目は算出に人件費を含まない概念であるという点です。
材料を仕入れて加工して製品にして販売し、この「販売額-材料費」、ザックリといえば粗利が付加価値であり、これが給与原資だということです。
なぜ、こんな当たり前のことをこと細かくお伝えしようとしているかといえば、逆の経営も有り得るからです。
まず何でもいいから人を集めてビジネスをして、本来、人件費になるべき部分から利益を抜き取る…といったビジネスです。加工やサービスによる付加価値創造に挑むことを諦め、働く場を提供することの手数料を働き手側から頂戴する…という事業モデルです。
まず、働き手には、その人それぞれのスキルレベルや向上心に応じて、適正な給与水準、所得ポテンシャルがあります。これは仮に今働いていなかったとしても、その所得ポテンシャルを潜在的に持っています。
そう考えるならば、付加価値を生む経営とは、この人が働いてくれたならば、この所得ポテンシャル以上の付加価値を生み出さなければならない…。これが経営者の挑戦であり、創意工夫の中身だということです。
従業員により高い給与を支払っていくためにも、付加価値を高めていくことが不可欠です。その王道とは商品サービスを高めていくことであり、その商品サービスをより効率的に生産することです。
給与が増える…、これが付加価値から実現されていくことを願ってやみません。
成長の意味は、高い付加価値、ビジネスレベルアップに向かっていますか?
これを諦めて…、働き手の所得ポテンシャルから抜いちゃっていませんか?