【第538話】製品開発は差別化よりも汎用化を目指せ!
「この新製品は最新技術を用いて作ったこれまでにない性能を持っています」、「販売を開始し、お客様のご要望も聞こえてくるようになってきたので、今後はその声に応えながら製品ラインナップを増やしていく予定です」と社長。
これまでのご苦労に頭が下がる一方、これから…については少し懸念がある旨、意見させていただきました。
「むやみに製品アイテム、ラインナップを増やしてしまうことには問題があります。劇的に工場の生産性が落ちていきますし、在庫リスクも高まってしまいます。受注の事務処理や梱包輸送も煩雑になり、いずれ忙しいけど儲からない…になってしまいます。そして何より経営姿勢として問題があります」…と。
お客様に言われた仕様を満足したのでお代金を下さい…という経営姿勢は“請負”です。
お客様の声に応えて新商品を“開発”しました…は、実のところ真の開発にはなっていないということです。
ここで、お客様に言われる前にお客様のご要望に応えた製品を開発したのでこの価格で販売しています…という経営姿勢が“開発”です。
大切な点なので補足すれば、こうした仕事も請けられます…は開発とまでは呼べず、少し厳しい言い方をすればまだお勉強だということです。
お勉強して、これまでに請けることのできなかった仕事も請けられるようになった、できる仕事の範囲が広がった…というだけのことです。
こうした請型の経営意識が悪いとお伝えしているのではありません。ですが、売上は増えるかもしれませんがそれで収益性、利益性は高まりますか…と。
価格イニシアチブを持たない請型の経営意識で会社を大きくしてしまうと後が大変…というのは歴史が語っていることです。
それはともかくとして、開発の目標は何でしょうか…と聞かれてみなさまはどう答えるでしょうか?
ことビジネスという視点で答えるならば、それは「お客も喜びこちらも儲かる製品と価格の実現」といえるでしょう。
言うのは簡単ですが、それをやるのはなかなか難しいことです。なぜ難しいかといえば、それは開発が投資だからです。つまり、先におカネが出て行って後から返ってくる…かもしれないし、返ってこないかもしれない…というリスクを伴うことだからです。
そもそも論として、開発型の経営意識というのは先行投資というリスクを伴います。だからこそ開発にあたってはその投資回収のリスク対策を組み込んでおくことが欠かせません。
そのリスク対策の本丸とは、「どんなお客様にも専用品であるような汎用品を考える」ということです。
つまり、多くのお客様の声を煮込んで、それらの声の包含的な製品に仕上げていくプロセスが“開発”ということです。
こうすることで、同じ製品であっても多くの顧客に応えることができますし、そこで開発された要素技術はまた広く用途展開を図れるため、投資回収リスクを低減させ、延いては大きなリターンを生み出すことになるのです。
ちなみに、新製品の開発では、どうしても差別化、違い、新しさ…といったことに目が向きがちです。あるいは顧客を絞れ…といったことも聞かれるでしょう。
ですが、それは大企業のマーケティングです。絞ったところでそのセグメントに何千人、何万人もいるということです。それは絞っているのではなくて分けているだけです。
製品開発で生み出すべき違いとは、お客様へ提供する価値・価格としての違いです。その価値をこの価格で…の違いです。工夫され汎用品にまで煮込まれていること自体が強い差別化を生み出します。むしろ生産効率が良く、広く売れることで価格が抑えられている…ならばお客様にとっても喜ばしいことなのです。
製品開発は汎用品に仕上がるまで煮込んでいますか?
今年こそ、開発費を予算化しませんか?