【第463話】現業を突破していく経営イノベーションの現実的な進め方

「この商品開発に取り組んで良かったです。あの時目指したイノベーション、小さいですけどね」と社長。

 

オリジナルな新商品が着実にお客様に受け入れられつつあります。商品力としては小さなイノベーションながらそのことが世の中に広がりを見せています。

 

こちらの社長、とてもアイデアマンで、お会いした当時は多くのビジネスアイデアをお持ちでした。

 

ところが、新事業検討を進めていく中で、先ほどの新商品は、これらのアイデアにはなかったものになりました。

 

なぜか…といえば、その答えはシンプルです。

 

自社が取り組むビジネスとして「強みが活かせるか」、「地に足が着いているか」、「採算にのせられる可能性が高いか」といった視点でアイデアをスクリーニングしていった結果、どれも残らなかったため、新たな新商品アイデアを考えるに至ったからです。

 

新事業の戦略策定にあたって、答えなき大命題があります。それは、「新事業なのだから幅広に検討すべき」という夢想論と、「強みを起点に地に足を着けて検討すべき」という現実論です。

 

弊社では、多くのクライアントが製造業、建設業、IT業、エンジニアリング業など理系ビジネスであるため、後者のアプローチをお勧めしています。

 

これは、経営学の世界では、コアコンピタンス、リソースベース、ケイパビリティ…といった戦略軸として知られているものです。

 

なぜ、こうした立場で新事業構築、新商品開発を進めるかといえば、その答えもまたシンプルです。

 

それは「無い袖は振れない」からです。中小企業において、そもそも新事業の準備、新商品の開発といったコスト自体を捻出することも大変です。

 

こうした現実を前提とすれば、そもそも「新事業なのだから幅広に検討すべき」といった夢想論は、限りある開発資金や人材でやるという制約の時点で負け戦確定、飛んで火に居る夏の虫…ということです。

 

こうした夢想論をお持ちの経営者には、こうお伝えしています。「今の時代、アウトソースすれば、スマホでもテレビでも電気自動車でも何でも作れますよ、ただしそれを採算に乗せられるかどうかは別ですが…」と。

 

こうお伝えすると、ですよね…と現実の世界に戻ってきてくださいます。

 

イノベーション――、刷新、革新、変革、といったことを頻繁に耳にします。しかし、多くの場合、「全く新しい商品に刷新する」、「古い業界を変革する」、「こんな世の中を革新する」といった文脈です。

 

こうした主張というのは、今を変える、今を基準にこれから頑張ります…と“宣言”しているにすぎず、本当の意味で中身あるイノベーションではありません。

 

イノベーションとは、悪いところを変えてやるといったことよりもむしろ、目指す理想を実現していくためのことです。

 

ですから、イノベーションは、世の中に変化を生み出すような自社側の変革です。限られた資金と人員で出来得る限り技術開発に取り組み、多少なりともオリジナルな新機軸を打ち立てて、それを新たな商品、新たなビジネスにまで仕上げていくことです。

 

実務的にこれを進めようとするならば、持てる技術力や組織能力を、お客様へ“応用”できないかを考えることが出発点です。これは一般に「用途開発」と呼ばれるアプローチです。

 

その新商品は、どんな理想を目指して設計しましたか?

 

その実現へのチャレンジ精神が、例え初めは小さかったとしても胸を張ってイノベーションと呼べることです。

 

「世の中を変えてやる」よりも「自ら変わる」でイノベーションしてますか?

まずはできるイノベーションから始めませんか?

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