【第253話】新事業を高収益化する“価格交渉力”の絶対原理

「いゃー、素晴らしいお客様だった」――、とある新事業を開始し、販売を順調に伸ばされている社長。お客様との契約交渉にあたって、受け渡し条件やお支払い条件がとてもスムーズにまとまり、むしろお客様も喜んで下さっているとのこと。

 

社長が嬉しいのもそのはずです。ご自身で考え抜いて、渾身の自社ブランドとしてオリジナルな事業を構築し、素晴らしいお客様とのご縁の中で、お客様にお喜びいただきながら販売が伸びている…、商売人としてこれほど嬉しいことはありません。

 

一方、自社のお客様のことを良く言わない社長とお会いすることもあります。なんでも、「品質に文句が出て」、「急な注文が多くて」、「どんどん値引きされて」ホント参ります…、といったことだとか。

 

当然のことながら、自社のお客様のことについて文句を言っているような状況というのが、望ましいはずがありません。そうであるならば、なぜこういった文句が生まれてしまうのかという根本にある構造を考えてみる必要があります。

 

ちなみに、社長ですから仕事があること自体は嬉しいのです。それにも関わらず、なぜかお客様に対して文句が出てしまう…、そのことを詰めていけば一つの原因に突き当たります。

 

それは実にシンプルです。“価格”です。仕事をしていく上で、プロとして品質や納期について満たすべきことはお互いに理解し合えるものです。

 

しかし一方で、その品質を満たすために必要なコスト、その納期を達成するために増加するコスト…、こういったコスト負担を取引価格にしっかりと反映できるかといえば、大抵の場合、これをお客様に受け入れていただくというのは、なかなかに難しいことです。

 

このため、人情的に「おカネ」の話がしにくいこともあり、品質や納期といったことでの文句となって現れてくるのです。実際、「最近、いかがですか?」とお聞きすると、「お陰様で忙しいです、おカネになればいいんですけどね…」という、皮肉めいたお約束のフレーズが聞かれます。

 

このように、文句の原因は“価格”です。これを言い換えれば「値付けの権利」が握れていないことが、不満の正体であり文句の原因です。

 

簡単そうにも聞こえますが、「値付けの権利」というのは、ビジネスにおける交換の根本であって、契約交渉における重要条件です。このため、「値付けの権利」は、品質や納期といったこととは異なる次元で、売り手と買い手の間で立場の違いが最も現れる契約条件となるのです。

 

では、どうすれば「値付けの権利」を持つことができるのでしょうか。こういった交渉パワーや交渉術についての議論が後を絶ちませんが、どれも小手先の心理的なテクニックに依っているように思えてなりません。

 

新事業構築の企画検討、研究開発の試行錯誤、お客様との打合せ、営業商談…、こういったビジネスの最前線で確信したことがあります。これは、絶対原理です。

 

それは、現場では「そのことについて“どちらの方が考えているか”の差が、交渉パワーとなって現れる」ということです。これは、その場での小手先の心理戦などではありません。交渉テーブルに着く前の努力でパワーバランスが決まるのです。

 

お客様の方が考えていて「これできない?」と聞かれたならば、それは当然のことながら「この価格で」ということとセットです。お客様の方が考えていますので、「値付けの権利」もお客様の側にあるのは当然のことです。

 

一方、こちら側の方が考えていて「これでいかがですか?」とお伝えすることができたならば、それは「この価格で」もこちら側からの提示になるということです。アイデアを考えたのはこちら側ですから、「値付けの権利」もこちら側にあるからです。

 

もうお分かりいただけるものと思いますが、「値付けの権利」を握って商売したければ、お客様よりも考えなければいけません。

 

そのためには、苦しくてもお客様に“答え”を聞いてはなりません。その時点で、折角、生まれるはずだった付加価値の機会が消滅してしまいますし、「値付けの権利」を手放すことになってしまうからです。

 

満足な契約を獲得したければ、例え徒労に終わろうとも、まずこちら側で先回りして考える努力が大切です。

 

お客様よりも考えていますか?

答えを聞こうとせず自らアイデアを生もうとしていますか?

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