【第205話】企業が成長発展し続けるための“提案”の条件
ビジネスというのは、多かれ少なかれ、お客様への“提案”を含んでいます。
製品やサービスを通じて、「この設備を導入して生産量を倍増させませんか?」、「これを食べて栄養バランスを高めませんか?」、「このサービスを受けて明日からの活力を養いませんか?」といったことを、お客様にご提案しています。
自社の製品・サービスを、お客様への「ご提案」に創り上げるというのは、なかなかに骨の折れる思考的努力です。
それは、こちら側で知っている自社の製品・サービスのことを、こちら側では良く知り得ないお客様の事情に置き換えるという応用力が必要だからです。そのため、多くの企業が“提案化”を諦め、製品・サービスのままで売ることに甘んじてしまっています。
製品・サービスのままで売ることを脱するために、提案化に取り組んでいくという、この辛く苦しい思考的努力に一歩を踏み出したとしても、そこには大きな鬼門があります。その思考的努力の過程で、道が大きく二つに分かれているのです。
一つ目の道は、お客様に「変えてみませんか?」というご提案の道です。もう一つは、お客様に「そのままでいいですよ」というご提案の道です。
自社の製品・サービスをお客様へのご提案に仕立てていく過程で、腰が引けて「どういえば売れるか」と考えてしまうと、「そのままでいいですよ」というご提案に堕ちていってしまいます。
営業トークを考えれば容易に想像がつくことです。見込みのお客様に「変えてみませんか?」というのと「そのままでいいですよ」というのと、どちらがお客様にとって受け入れる心理的なハードルが低いかということですし、営業マンにとって楽かということです。
しかし、良く考えてみていただきたいのですが、お客様に受け入れられることが目的なのでしょうか。受け入れられることと、それが商売になるということは別の話です。
そもそも、お客様に「そのままでいいですよ」であるならば、お客様はその製品・サービスを購入する理由は何なのか?ということです。
「そのままでいいですよ」という提案で、唯一考えられる購入理由は、「買い替え」です。確かに買い替えのタイミングによっては売れるかもしれませんが、「そのままでいいですよ」というお客さまへの迎合の先にあるのは、縮小市場だけです。
世の中の進歩発展を目指しつつ、新たなビジネスを企てるということは、新たな市場を上積みしていくことです。それは、お客様に「変えてみませんか?」と提案することで成り立ちます。
製品・サービスの提案化の過程で、「売れるかな」という不安の中にあって、目指す道は「変えてみませんか?」の方です。決して、「そのままでいいですよ」の道に迷いこんではなりません。
当然のことですが、お客様に何らかのポジティブな貢献をしようと考えない限り、本物の成長などあり得ません。ひどい場合には、「そのままでいいですよ」の道に堕ちたにもかかわらず、お客様にそれを悟られまいと、「変えてみませんか?」の提案にすり替えているようなことがあります。
例えば、「車を買い替えて省エネ」といった類のことです。名目として掲げていること自体、実は普遍的なこと、つまり「そのまま」であるにも関わらず、それが新しいことかのごとき説明に書き換えられています。
こういった言葉の書き換えただけの本質的ではない提案というのは、いつも、お客様に対してポジティブを最大化するような提案ではなくて、ネガティブを最小化するような提案だと相場が決まっています。
とても単純なことですが、仮にお客様のネガティブを最小化し続けたとして、お客様に本質的な発展がもたらされるのですか――、ということです。
お客様にとってポジティブな提案とは、豊かな成長発展への提案であって、決して、効率化、改善、短期的な資金繰り…といったことではありません。真にお客様の立場から、ポジティブを生み出す創造的で進歩発展的な提案を創り出すことに取り組んでいくことが大切です。
御社の提案は「変えてみませんか?」になっていますか?
その提案はお客様のポジティブを最大化していますか?