【第178話】強い経営は“縦”に、弱い経営は“横”に並べる。
「販売状況はどうだ?」と聞く社長、「ぜんぜん反応がなくて…」と営業部長。渾身の新商品を開発して販売を開始してみたものの、膝がカクカクして、お腹が痛くなって、もう笑っちゃうほど…売れない。
「ウソでしょ…」と思いながら、つい先日まで想像していた、問い合わせが殺到して、どんどん売れて、お客様からは「素晴らしい」の声…、そんな思い描いていた姿が霧の中に消えていく。踏み込んだことのない領域に挑戦しているのですから、こんなこともあるでしょう。
でも、今、笑っていられるのは、そこから這い上がってきたからこそ。こういった焦燥感というのは出来れば味わいたくないものですが、挑戦と表裏一体のことでもあります。
つまり、こうした状況というのは危機というよりも前兆。すぐそこまで大きな貢献と利益が近づいている証拠でもあります。
弊社は独自の新商品開発や、クライアント企業らしいフェノタイプな新事業の構築をお手伝いさせていただいています。そのため、「この新商品、売れそうでしょうか?」とか「今度の新サービスは、まだ世の中にはなくて…」であったり、「このアイディアは…」といったご相談をいただきます。
こういった場面の特徴として、「どういった商品・サービスですか?」とお聞きして、その時点で説明が分かりやすいということはまずありません。
「年間に100を超える事業アイディアを聞くこともある私でも「???」なのですから、見込みのお客様が聞いたとしたら残念ながら伝わらないでしょうね」という場合が大方です。無論、これから準備していくということでご相談されているのですから当然でもあります。
販売開始にあたり、商品が出来上がっていることと、売れる状態にまで準備されていることとの間には大きな隔たりがあります。商品はできているけど売れる状態にはなっていないという場合、ご説明には一種のパターンがあります。
例えばこんな感じです。「この新商品は、こんなことができて、そんなことも、そしてあんなことも…」というご説明です。つまり、商品の用途を延々と並列に説明されるのです。頭の中で商品用途がいわば“横”になっている状態といえます。
一方で、新しい商品なのに説明が分かりやすいこともあります。「この商品はこんなことができます、さらに、そんなこともできます。しかも、あんなことまで…、いかがでしょうか?」と続きます。
この説明が優れているのは、用途に優先順が付いているということです。いわば商品用途が“縦”になっている状態なのです。
実は、この“横”と“縦”の違いこそ、商売の成否に決定的な違いを生むものです。“横”を“縦”にするというのは簡単そうにも聞こえますが、実はとても難しいことなのです。なぜならば、商売にあたっての心理状況、意識レベルの違いだからです。
これは実に単純なのですが、“横”に並んでしまう経営というのは、「この商品を広くどこかの誰かに買ってもらいたい」と考えているから、そうなってしまうのです。要は、特定のお客様に届くところまで準備ができていないのです。
一方、“縦”になっている経営は、「他ならぬあなたのために」と言っています。自分たちが誰のために働いているのかを知っていて、モノを中核にしながら提案にまで仕上げています。そのお客様にとってこの方が良いと考えているから、商品用途の優先度を理解し“縦”にすることができるのです。
これは言い換えれば、“横”から“縦”にするというのは、「モノ売り」から「提案売り」へ転換することであって、そのためには働く視点を「自分のため」から「お客様のため」へ変えなければなりません。
この“横”と“縦”の違いがお客様にどのように届くかを考えてみれば、すぐにお分かりいただけるはずです。「いろんな人に買って貰いたい」と自分本位で“つぶやく”のか、「あなたのために働きたい」と顧客本位で“叫ぶ”のかの違いということです。
この“縦”と“横”の違い、メッセージの差が商売の差となって現れることに、疑念を挟む余地はないでしょう。
その新商品はお客様の用途が“縦”になっていますか?
“モノ”ではなく“提案”に仕上がっていますか?