【第149話】具体策だけで経営ステージが上がらない根本理由
経営は最終的に行動力の程度がものをいいます。結局のところ行動レベルで実行していかなければ、何も生まれないのは自然の摂理です。
ところが、実は行動力だけで経営のステージを持ち上げることは、ほぼ不可能です。それは経営の質的な向上が望めないことに起因します。
これは、試合数だけ多い「ママさんテニス」のようなものです。試合数をこなしているため試合巧者にはなっていくのですが、それはあくまでも対応力です。
自分の戦い方のスタイルを考え、それを組み立てるためにサーブ、フォアハンド、バックハンド、ボレー…、戦略的に要素技術を高めている選手、つまり自分から仕掛けられるパターンを持った選手には勝てません。
つまり、場当たり的な対応力も大切ですが、それはあくまでも相手からの攻めにどう対応するかという受け身の話。自分から仕掛けていくことができる強さとは違います。
経営を高めるためには努力が必要です。この努力にはエネルギーの使い方として「思考的努力」と「行動的努力」という、質的に異なる努力の仕方があります。
思考的努力とは、まさに考えることです。構想、創造、企画…、こういった類の努力です。
一方、行動的努力とは、動くこと。実行、実践、試行…、考えたことを実現していくための努力です。
思考的努力にも、調べたり、聞いたり、やってみたりと、一定の行動は必要なのですが、思考的努力としての行動は思考レベルを高めることが目的であって、考えたものを実行していくという行動的努力における行動とは違います。
著しい行動量は、望む結果を実現するために大切であることはいうまでもありません。要は思考的努力と行動的努力は行ってこいの関係。行動してはいったん立ち止まって考える、という循環関係にあります。
商売の多くは、行動的努力から生み出されているのは事実です。つまり行動をおカネに“換えて”います。だから、動きさえすればおカネになる?という面があることは確かです。
ところが、行動をおカネに“換えて”いくだけの経営を成長軌道に乗せていくのは難しいという実態があります。これは、時給で働く経営のようなものだといえばお分かりいただけるでしょう。
努力に対する報いとして、しっかりとした商売ベースの売上・利益を実現していこうとすれば、何らかのアイデアや着眼をおカネに“変えて”いくことが欠かせないのです。これこそが付加価値の実体です。
少し補足すれば、思考力を源とするアイデアで稼いでいるのか、来た仕事を行動力でさばいて稼いでいるのか、という商売の質的な違いということです。この違いは、最終的に事業の利益性となって現れてきます。
高収益を実現している企業は、アイデアや着眼など、思考的努力に立脚しています。そして、その思考を実現するために行動が展開されているという関係にあります。
ここで、どちらの努力が難しいかといえば、やはり「思考的努力」です。その難しさの根本は“抽象的”だからです。
経営のステージを上げるためには、この“抽象的”なレベルで上げる必要があります。つまり、思考的努力で“抽象的”に経営を持ち上げて、その上で、行動的努力のための“具体的”な方策を練ることが肝心です。
稀にある勘違いは、顕著に高度な“行動能力”と思考的努力の結果との混同です。
例えば、職人技の名工、凄腕の営業マン、顧客獲得ルート…、こういった追加的に得た行動能力要因によって、売上・利益の向上がもたらされることはありますが、これらはあくまでも行動レベルの違いであって、根本的に経営のステージが上がったのではない点に注意が必要です。
「思考的努力」のための時間を意図的に準備していますか?
“抽象的”な考えを言葉に落とし込んで自社の経営を語れますか?