【第23話】見える“ニーズ”が儲からない理由
古くからの商売というのは、長い時間の中で、法的規制、固定的な企業順位、業界団体の横並び、独特の商慣行。。。世の中の一機能を担っていることによる売上の安定感、仕組みとしての成熟度と引き換えに、ガンジガラメでなかなか大変なものです。
一方、新しい商売が楽かといえばそんな事はありません。顧客には新たなニーズそのものに気付いてもらわなければならないし、その実行に必要なスキルを持ったスタッフを集めるのも大変です。そして何といっても、今の事業を軌道に乗せながら、次の新しいビジネスを考え始めなければならないという重圧。
いずれどちらの事業に携わっていたとしても、今の時代にあっては、新たな打ち手を繰り出していかない限り、衰退の一途を辿ることは間違いありません。
新たな打ち手を繰り出すにあたり重要なのが“ニーズへの着眼”です。このビジネスがどんなニーズを満たすのか、狙うのか。。。
経営者の方のお話を聞いていますと着眼しているニーズは様々です。これらを類型化するとニーズのくっきり感で次の三段階があります。
まず最初は、既に顕在化している問題解決ニーズです。ほとんどの人が分かっている、知っている、見えているニーズです。こういったニーズレベルは一事業者が取り扱うには大き過ぎたり、取り組んだとしても採算が期待できない事業である場合が多く、概ね国や自治体等のサービスだと認識されてきた領域です。
昨今では、公共サービスへの民間活力の導入・活用という考え方の下、国や自治体で行っていた事業の執行がアウトソースされ、その受け皿としてのビジネスも多くなってきました。
また、マイナンバー制度のような新たな制度により、これに付随するビジネスが生まれたり、個人情報や機密情報取扱いの規制強化で、これまでになかったニーズが生まれ、そこを埋めに行くようなビジネスも立ち上がります。
この階層のニーズは、原則的に事業者自身が起点で創発したものではないという点が特徴です。
そして二つ目は、不便解消ニーズです。不便を感じていた事を新たな方法で解決していくというもの。ここがビジネスの主戦場になってきたニーズ階層です。
昨今では特にIT活用でこの階層のニーズに対応することをビジネスとしている事業が極めて多いかと思います。IT分野は参入が容易である一方、模倣が簡単なためにスピード勝負で後発を引き離していくことが不可欠であるため、実は地道な営業が必要なビジネスでもあります。
そして最後は嬉しい・楽しいニーズです。あると嬉しかったり、楽しかったり、豊かだったり。。。というビジネスです。つまり、表立って本当に“ニーズ”があるかどうかは分からないために、事業者側がニーズに気付くように仕掛けていかなければビジネスにならないニーズ階層です。ゲームなどがその典型例です。
このニーズ階層はざっくり当てはめると文化の領域です。東京ディズニーランドは無くても生活できますが、仮に閉園なんて事になったら多くの人がとても悲しむでしょう。音楽の無い生活など考えられないし、たまには落語も聞きたいところです。
これは人間の欲求レベルでいえば高次の欲求といえます。ニーズそのものを喚起していかなければならないので、ビジネスとして当てるのは大変ですが、工夫次第で儲かるニーズ階層です。そして、こういったビジネスがその国の知的豊かさを現します。
ニーズがはっきりと見えているということは、図らずも問題化してしまった市場か、誰か他の人が先に創った市場、という事です。ですから、ここで儲けるのは至難の業なのです。
どのようなニーズに着眼したビジネスなのかが、そのビジネスの宿命をほぼ決定づけることになります。モノが足りている時代、自らニーズを創っていくことを考えねばなりません。
御社の次なる打ち手はどんなニーズ階層を対象にしていますか?
まだ見えぬニーズを掘り起こすことに時間と労力を使っていますか?