【第551話】経営のリスク・エクスポージャーを制御せよ!
「トランプ関税で株価が下がって、1日で〇億円無くなりました」と社長。事業会社を複数、経営しながら、調達したエクイティ的な長期資金を遊ばせておくわけにもいかず、その資金運用として株に投資されています。
当然のことながら、なぜ株に投資しているかといえば、株価が下がるかもしれませんが、上がる…に賭けているからに他なりません。
この資金を銀行に置いておけば、そうした価格変動にさらされるようなことはありません。その反面、減る心配がないと同時に金利以上に増えることもありません。
ここで全手持ち資金のうち、銀行に預けてある資金が4割、株に投資している資金が6割の場合、手持ち資金のうち6割がリスクにさらされていることになります。
こうした「リスクにさらされている部分」は“リスク・エクスポージャー”と呼ばれ、金融事業のみならず実体事業の経営においても注意しておくべき経営指標です。
まず前提として、経営はお客様活動であると同時にリスク活動でもあります。リスクを取らずにいたならば、発展どころか存続すらも不可能だということです。
リスクなんて…とお考えかもしれませんが、経営活動の全てがリスク活動です。
例えば、パン屋さんを経営しているとしましょう。まず材料となる小麦粉を仕入れる…これがリスクです。
小麦粉を仕入れて、生地にして、焼いてパンに仕上げて、販売する…。もしこのパンが売れなかったら、この小麦粉への投資分は回収できない…という意味で、小麦粉投資リスクにさらされていることが分かります。
もっと大きなリスクは、ミキサー、オーブンといった設備投資です。小麦粉仕入価格とパン販売価格の値差から、長期に渡ってこれら設備投資資金を回収していくことになります。
つまり、この設備投資の回収が終わるまでは、設備投資の未回収分のリスク、回収できないかもしれないリスクにさらされていることになります。
いかがでしょうか? 経営がいかにリスクにさらされている活動かお分かりいただけるものと思います。
ちなみに、ここまでは価格変動や投資回収といった視点で経営リスクを見てきましたが、その逆がリスクになり得ることもあります。
例えば、来年納める商品の販売価格や販売数量を約束してしまうような場合です。
来年の販売価格と販売数量が約束されますから、その売上が確実なものとなるため、一見、売上リスクが無くなるように思われます。
しかし一方、その材料費に変動の可能性があったならば、材料費が下がれば良いですが、もし上がってしまったならば予定していた粗利は減ってしまいます。あるいは約束した商品価格以上に材料費が上がってしまったならば、もはや逆ザヤです。
このような契約というのは、「確実な売上」と引き換えに「材料費変動リスク」を引き受けてしまったことになります。
実際、缶詰製造で、これまで漁獲や価格が安定的だった材料の魚が不漁となり価格が高騰してしまい、販売が逆ザヤになり会社をたたむことに…といった事例もあります。
このように経営の日常はリスクだらけです。意図的にリスクを取っている場合ならまだしも、図らずも相手のリスクを引き受けさせられていた…といったことも起こり得ます。
このような契約の中身というのは基本的に「リスクの分担」に関する取り決めです。弱気だったり心配だったり、どうしても未来の売上を確定させたくなる気持ちは分かります。しかしこの際、相手方のリスクを引き受けてしまうといったことが起こりがちです。
大口受注で売上の安定を図ることも大切ですが、そのために他のリスクを引き受けさせられたりといったことへの注意が必要です。あるいはもっと他に多く高く売れる可能性を捨ててしまうこともまた機会リスクだということお忘れなく。
日常的なリスクを本当に理解していますか?
どうせリスクある世界、アップサイドリスクに賭けようとしていますか?