【第55話】事業を成長に導く経営の“準備”とは
新事業の営業開始、新商品・新サービスの販売開始、新事業場の完工。。。このような場面はいわば記念日。企業紹介のパンフレットで言えば「沿革」欄に刻み込まれるような華々しい区切りの日です。
一方、こういった記念的区切りをどう迎えるか、どう捉えるかによって、経営の成功確率が大きく違ってくるように見えます。
事業開発、商品開発。。。こういった工夫努力の結果として最終的に事業や商品として世にお目見えするのは、それらの内の一部でしかありません。
ですから、新事業や新商品・新サービスが世に見えるようになる“販売開始”という地点は、そこまで漕ぎ着けることも難しいという意味で経営上とても重要であり、一つの目標地点になることは間違いありません。
ところが、企画プロジェクトの推進を専門とする立場から言わせていただければ、ここをスタート地点と捉え、それ以降を経営と考えるような姿勢には、違和感を覚えます。
“販売開始”はあくまでも通過地点であって、その先でいかに高収益に育て上げるか。“販売開始”までにいかに販売拡大のシナリオを描ききっているか。こういった“販売開始”以降を含めた“準備”こそ、目標設定としてあるべき姿なのです。
宝くじが買わないと当たらないのと同じで、事業はやってみなければ分からない、というご意見は確かにその通りでもあります。
ですが、ここでいう「やってみなければ分からない」が、馬や船や自転車に賭けるのと同じ様な感覚で用いられていることに対して、それは違いますと申し上げているのです。
こういった文脈で用いられる「やってみなければ分からない」は往々にして“販売開始”を意味しており、「その先」に対する“準備”があまりにも不足している結果、あっという間に沈没していく方もいらっしゃいます。
経営は投資です。リスクがあるのです。趣味にお金を使う程度であれば、ご自由にやられればよろしいかと思いますが、趣味ではなく経営と呼ぶからにはしっかりと“準備”を伴うことが必要です。
時折、新事業や新サービスを「夢」と呼ぶような場面に出会う事があります。小学生の作文ならいざ知らず、経営とは生々しい現実です。
御社が顧客にもたらすものが「夢」である分には構いません。だからこそ経営者はこの「顧客の夢」を叶えるべく、その夢が実現されるように徹底的に“準備”しなければならないのです。
販売が開始されれば、顧客対応に慌てる場面はありながらも、業務としては予定どおり淡々と熟していくことができることが望ましいのです。
すなわち、「顧客の夢」は、御社での「作業」によって実現されるのです。ですから、顧客の夢は御社の作業レベルにブレークダウンされていることが必要なのです。
経営とはしっかりとした“準備”を経て、そこで考え抜いた事で頭の中に見えてきた数字が、“販売開始”以降、実績値として目の前に現れてくるという事です。もう既に見えていた数字が現実化するだけです。
企画開発段階というのは、まだ収入が無いのに支出があるので、資金的につらいプロセスです。努力は売れて収益化されるまで在庫ですから、ちゃっちゃと仕上げて、早く収益化したいと考えがちです。
経営はリターンを期待した投資なので、リターンとしての結果を早く見たい、知りたいという衝動にも近い感情が生まれることは良く分かります。ですが経営を伸ばしていこうと考えれば、この衝動をコントロールし、しっかりと“準備”に時間を割くことが大切なのです。
経営者の仕事は、企画という名の“準備”です。仕込みを怠ってはいけません。ここでの準備努力は、その後の“販売開始”が少し遅れようと決して無駄にはなりません。
御社では慌てずしっかり“準備”に時間を割いていますか?
“販売開始”以降まで含めてしっかりと設計していますか?