【第52話】成長をもたらす経営姿勢の原点
準備中の打ち手を展開する前に売上が増え始めることがあります。とても不思議なことですが、レアケースではありません。多くのクライアントで起こる現象です。
これは「姿勢」の変化によるものだと思われます。
打ち手の準備過程を通じて、自社の能力や強みを再認識し、誰の為に働いているのかについて迷いが無くなるにつれて、売っていくための「姿勢」が整い始め、具体的な打ち手の展開前にも関わらず受注が増加するのです。
大抵の場合、この頃には社長殿をはじめメンバーからは、最初の頃にあった緊張感や焦燥感は消えています。
では、こういった「姿勢」の変化はどのように生まれているのでしょうか。
その前に、経営とは投資です。ですから常に投資に見合ったリターンが得られるかどうかというリスクを負っています。
だからこそ最も注意しなければならないのはアンフォースド・エラーです。競合他社のアクションというよりはむしろ自身の打ち手で自滅していかないようにすることが大切なのです。これこそが打ち手は客観的でなければならないとお伝えしている根拠でもあります。
事業を成長させていく社長殿は、この点をとても良く理解されています。成長させることも目指しますが、自滅していかないことへもしっかりと留意されているのです。
そして、自滅していかないために大切なのが事業範囲に対する認識です。なぜ大切かといえば、これは自社が何者なのかという経営上極めて根元的な認識だからです。
経営を伸ばされる社長殿は、ご自身の在り方を大方分かっておられます。つまり、これからも何をしていきたいか、何が向いているかについて概ね分かっておられるのです。
言い方を変えれば、経営を伸ばされる社長殿は己を知っているということです。長い時間をかけて磨いてきたからこそ、自社の能力が持つ意味や特徴、強さや脆さについて分かっておられるのです。
ですから、こういった社長殿が自社の事業やその将来構想についてお話される時は、表情に力はあるものの声のトーンは謙虚、経営環境の変化に対して主体的である一方、話す内容はどこか客体的です。すなわち、お客様目線で自社の儲けの理由を説明されます。
一方で、妙にビジョンに偏った“熱い”経営計画をお見かけすることもありますが、これは断じて経営計画ではなくて単なる戯言です。
熱量は努力の量に対するものであって、経営の成功を熱量だけで手に入れられるほど世の中は甘くありません。計画の成就とは努力を伴うものであり、その努力の手順が具体的に示されていなければ万に一つでも上手くいくはずはないのです。
経営を伸ばされている社長殿が必ずしも器用という訳ではありません。むしろ不器用で良くて、社長をやっていることで十分に世の中に貢献しているのですから、ご自身の大好きな事業領域をとことん生き抜いていけば良いのです。
マーケットイン発想で、マーケット側から引っ張られて自社の事業範囲を外れた場合、他社の土俵に乗ってしまっているので自滅する可能性が高いといえます。
己を知りその事業領域を深堀していくことこそ差別化の源泉です。追うべきは深さであって広さではありません。
掘ったところを時代に合ったカタチで収益化していくための手続き的な努力は必要ですが、深ささえあればそれは可能です。
己を知っている社長殿は、深さを掘ることを中心に考えていますので、事業範囲についてあまり迷いが生まれません。その深さが顧客に便益をもたらすことを知っているので、努力に対する迷いも生まれません。よって、どのように深堀していくかを考えることに集中できるのです。
己を知ることが経営に成長をもたらすという事実は、業種業態を問わず原理原則です。市場や競合も大切ですが、成長をもたらすために先ずは自社、ご自身の姿勢なのです。
御社では“己”についての認識が共有できていますか?
“己”について更新・再定義する時間を取っていますか?