【第390話】強さは“無形”に宿る
「弊社は、主に〇〇製造を手掛けてきまして、現在では〇〇のみならず、△△、□□、××といった製品へと拡げ、確かな品質、効率的な価格、的確な納期で、お客様からご愛顧いただいてきました」といった会社紹介を、初めて訪問の際にお聞かせいただきます。
続いて、工場をご案内いただくと、そこには様々な独自のノウハウがあり、工場長さんはそれらを熱心にご説明下さいます。
当然のことながら、こうした無数のノウハウの積み上げがあって初めて製品がカタチとして完成します。
このため、これら無数のノウハウは、どれが欠けてもこの製品になるはずもなく、全て大切なノウハウであることに異論はありません。
ここで、モノづくり企業、エンジニアリング企業、理系ビジネス…における新製品の開発問題が勃発します。
それは、新製品の企画開発にあたって、できないこと、懸念されること、足りないこと…が列挙され、挑戦領域への一歩目が挫かれる空気感が漂うことです。
そもそも、これまでやってこなかったことだからこそ新製品なのです。出発時点で全てが揃うことなどあるはずもない訳で、足りないピースを埋めていくための努力が開発といえることです。
ちなみに、製品とは完成してこそ製品と呼べるものです。このため、技術者には、完璧主義、現実主義、能力主義のような地に足の着いた価値観が期待されます。
このため、自社の製品を説明するにあたっても、品質、コスト、納期、QCDと呼ばれる生産目標管理、いわゆる一次管理の意識が徹底されることとなります。
このため、自社製品の説明にあたって、「確かな品質、効率的な価格、的確な納期」といった「悪いところが小さい」という説明になってしまうのです。
その何が悪いのか…、という反論が聞こえてきそうですが、それが悪いとお伝えしているのではありません。こうした地に足の着いた現実的な議論が大切だということに、全く異論はありません。
ここで、大切な一歩を踏み出すためにお伝えしたいことは、新製品の説明を「悪いところが小さい」というのは新製品のセールストークとしては弱すぎるということです。
そして、もっと声を大にしてお伝えしたいのは、御社には「もっと訴えるべき技術力がある」ということです。
理系ビジネスでは、どうしても目に見えるような技術力、技能力、生産能力といったことが前面に現れがちです。もちろん、できないことをできると言うことなどできません。
ただし、ここでいう“技術力”というのは、“ビジネス上の技術力”ということなのです。何も自ら技術力の定義範囲を狭めることなど必要ないのです。
広い意味で技術力とは、お客様の問題を何とか解決しようと目指す気持ち、お客様のご予算に収まるようにするための工夫、お客様のお急ぎに応えようとする調整…といったお客様活動としての創意工夫です。
こうしたことというのは、いわば目に見えない部分であり、こうした目に見えない企業のやる気、精神性、企業文化というのは、古くから目に見えない無形の価値として認識されてきたことです。
経営の世界でも、無形価値、インタンジブル、ブランド…などなど、そう呼ばれてきた感じのものです。
新製品の企画開発にあたって、最も大切なことは、高度な技術を獲得することや高価な設備を導入することではありません。
そうしたことも、その過程で必要不可欠ではなるのですが、最も大切なことは、お客様にどのようにお応えしようとしているのか、その“スピリッツ”こそが新製品の企画開発の肝なのです。
新製品をスピリッツで説明できていますか?
目に見える技術力よりも目に見えないスピリッツを育てようとしていますか?