【第370話】意識高い系で終わらせない強い経営理念の持ち方

「最近の若い経営者が掲げる美辞麗句の経営理念を聞くと萎える、話もしたくない」と社長。徒手空拳、裸一貫、百戦錬磨…といったことを地で行くような方。浮き沈みの激しい経営の世界での社長業は、もう30年ほどにもなられます。

 

昨今、事業の継承が進まず、経営者の高齢化が問題視される場面を至る所で目にします。現在70歳代といえば、おおよそ終戦頃に幼少期を過ごし、その後、日本の高度経済成長を体感してこられた世代です。

 

生きるのに必死だった…そんなご経験から、食うに困らない世代の“美辞麗句”が鼻につくのです。

 

こうした壮絶な経験をお持ちの社長に共通することがあります。それは、聞けば自然と心に沁みる経営理念、哲学、考え方…をお持ちだということです。

 

これが経営者としての強さであり、経営に強さをもたらします。経営理念とは、カイシャという法律上のバーチャルな存在に命を吹き込むことに他なりません。

 

では、経営の強さである理念の持ち方で、鼻につく美辞麗句な経営理念(偽物理念)と自然と心に沁みる経営理念(本物理念)との違いが生まれてしまうのはなぜなのかということを理解しておくことが大切です。

 

ここで、経営を理念遂行、何らかの目的状態を目指すものとするならば、最適化問題の思考法が役に立ちます。最適化問題とは「与えられた制約条件の下で、ある目的関数を最大または最小にする解を求めること」です。

 

経営理念とは、ここでいう「目的関数」であり、それを面倒な「制約条件」の下で対応していくのが経営という訳です。

 

こうした整理を踏まえた上で、本物と偽物の違いは、まず目的状態が“最大化”なのか“最小化”なのかに現れます。

 

本物理念は「目指す状況を自らの手で切り拓いて“最大化”しようとする」のに対して、偽物理念は「面倒な世の中の問題状況を“最小化”しようする」傾向にあります。

 

面白いのは、これ…、世の中の現状、問題状況の最小化を「目的」に据えてしまうと、与えられているという意味で目的自体が制約条件になってしまうということです。

 

言い換えるならば、この経営にもはや主体性は存在せず、ただただ、世の中の制約条件を所与として、その内のいくつかの緩和に取り組むことを通じて目的達成に近づこうとする…と言っているのです。

 

美辞麗句な理念、偽物理念の問題点は、その理念の本質が“目指す状況”ではなく“問題がない状況”を志向してしまっていることにあります。

 

残念ながら、ここで目的と手段が入れ替わってしまっています。このため、問題解決への取組みのつもりが制約条件との格闘になり、「立派な理念と虚しい成果」の経営が生まれます。

 

事業経営の目的、理念とは、なぜその仕事をやっているのか、その先に何を目指しているのか…という自発的で内発的な理由をそのまま叫ぶものです。他人から見て立派かどうかなどどうでも良いのです。

 

ところが、世の中の面倒を誰かに解決してもらえると、自らの制約条件も緩和されるため、偽物理念はある意味、皆にとって“ありがたい”のです。

 

このため、「問題状況の最小化」が偽物理念であるにも関わらず、皆からの賛同称賛を受けやすく、これを見た若い経営者が「理念とはこう描くものなのか」と教科書的にコピペし増殖しています。

 

経営理念とは、制約条件をさておき、まず自ら目指す状況を描いたものです。そしてその“最大化”を求めていく挑戦的な努力が経営です。

 

経営理念を、問題“最小化”の意識で持ってしまったならば、経営が制約条件下に置かれてしまうため、問題の奴隷となり主体性を失います。

 

経営を独自の成長発展に導く本物の経営理念とは、いわば「理想アプローチ」であり「問題アプローチ」ではありません。問題がない状況は理想に足り得ないということをお忘れなく。

 

高い問題意識よりも高い理想意識で理念を持っていますか?

理想を忘れて制約条件と戦ってしまっていませんか?

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