【第307話】新事業の成功を阻む社内の壁を超えるための準備

「昔の方が良かった…」と言われたこともあったと、当時のことを思い出して社長は苦笑いしながらお話されます。

 

なんでも、社内の忘年会の席でボソッとこう言うのが聞こえて、忘れられないエピソードとのこと。

 

この企業は、独自の商品分野を開拓し、売上も、従業員数も、そして従業員の待遇面も向上させながら、ある意味、順調に堅実な成長を実現されてきた企業です。

 

当然のことながら、経営陣は、自社の目指す理想や目標といったことだけではなくて、不況時にも耐え得る企業を作っていくため、従業員やその家族の生活を守っていくため、必死に頑張ってこられました。

 

会社も大きくなり、知名度も上がり、待遇面でも他社と比べて引けを取らないようになってきた。それなのに「言ってくれるよな~」という訳です。

 

面白いことに、この現象は、企業が傾いて厳しい時よりも、むしろ成長過程で起こります。その理由は、成長の構造に起因します。

 

企業が成長するということの主成分は大きく二つからなります。まず一つ目は既存の商品・サービスの販売拡大で成長が実現される「市場浸透型」の成長です。もう一つは新商品・新サービスを新たなお客様に販売していく「新事業型」の成長です。

 

市場浸透型の成長軌道にいる場合、同じ仕事をこなす量が増えていくことに対応していくために、マネジメント的には、増えていく人員に対してチーム力向上や人間関係の構築が優先命題となります。

 

このため、社内ムードは、元気に、楽しく、和気あいあい…といったことで、これは組織維持のモード、マネジメントの力点が社内にある状況です。

 

ところが、「市場浸透型」の成長がいつまでも続くはずがありません。いずれかの段階で、既存の商品サービスを新たなお客様に販売したり、既存のお客様に応じて新たな商品を展開したり、もっと行けば、自ずと新商品を新たなお客様に販売していくという「新事業型」に取り組む必要性に迫られます。

 

ある意味で、新事業型の成長ステップというのは、次なる市場浸透型成長への入り口でもあるのですが、この市場浸透型と新事業型で求められるマネジメント、組織メンタリティの違いが決定的に異なるため、このフェーズの継ぎ目でさまざまな軋轢が生まれます。

 

特に、端的に結論からお伝えすれば、市場浸透型のマネジメントが社内的であるのに対して、新事業型のマネジメントは社外的だということです。

 

このことは、社内よりも社外の事情が優先されることを意味します。つまり、社内の人間関係の維持といったことも大切ながら、それ以上に、成果、結果、パフォーマンスといったことが求められるということです。

 

例えば、市場の変化に対応して開発スピードを上げなければならない、これまで以上の能力・技術力を習得しなければならない、新たなお客様の要求にすみやかに応えなければならない…、いわばルーティンワークの域を超えた創意工夫な仕事をしなければなりません。

 

これこそが、前述の「昔の方が良かった…」発言の理由です。幸いにも市場浸透の波に乗って、温和な社内ムードの中で成長してきた昔を良かったと考えています。

 

経営者が先を見据えて、今の市場浸透型の限界を迎える前に次なる新事業型の成長を目指すと、「なんでこんなことをやらないといけないの」、「そこまでやらないといけないの」、「ギスギスしてまで」といった頭では分かっていたとしても感情がそれを拒絶するのです。

 

残念ながら、ルーティンワークで和気あいあいだけで仕事をしたいというのならば、いずれその仕事は時給千円に堕ちていくということを知らなければなりません。

 

経営者として、従業員待遇を維持向上させながら自社の存続発展を目指すならば、それは、社内の和を保つことではなく、むしろ社内に混沌を巻き起こすことであると知っておくべきことです。

 

これは、「そんなこと言ったらみんな辞めちゃいますよ」という管理職の正論に、「これが当社の仕事だ」と言い切れるかに掛かっています。

 

押される前に自ら次なる成長ステージに進んでいますか?

混沌を仕事と思える組織文化を創ろうとしていますか?

コラム更新・お役立ち情報をメールでお知らせします!

メールアドレスをご登録いただくと、コラム更新やコラムではお伝えしきれない情報などをメールでお知らせします。

こちらのページから是非ご登録ください。

経営者応援コラム