【第3話】マーケットイン発想の罠

新製品・新商品や新事業の立ち上げプロジェクトを推進していくにあたり、その起点となる着眼は極めて重要です。その後の収益ポテンシャルを運命づける極めて大きな注意点です。

 

仕事上、様々なビジネスプランに接しますが、問題意識の持ち方、着眼点そのものが違っていて勿体ない、と感じることが多くあります。そして、その捉え違い方には典型的なパターンがあります。

 

収益事業立ち上げのアプローチには、一般論的な用語で説明すれば「プロダクトアウト」と「マーケットイン」があります。プロダクトアウトは、作り手がいいと思うものを作る、作ったものを売る、という発想。マーケットインは、顧客が望むものを作る、売れるものを提供する、という発想です。そして、これらの用語は概ね「プロダクトアウト発想じゃダメ、マーケットイン発想でビジネスを企てていきましょう」という論調で使われます。

 

マーケットイン発想の間違い方として典型的なのが、世の中で起こっている事の表面的に見えている「症状」をビジネスチャンスだと捉えてしまうパターンです。顕在化して見えているのだから売れるはずだ、という主張です。しかし、買い手からすると根源的に欲しいと思っている価値と違えば売れない訳です。確かにその症状は起こっているのですが、本来、顧客が求めているであろう、このビジネスが提供しなければならない真の価値に理解が至っていないままで、その症状のみに着眼してビジネスを展開しようとすればどうなるか。。。

 

マーケットインという用語は、単に販売イメージ、顧客イメージをしっかりと創り込んでいきましょうという意味で使われていることが多いように見受けられます。そうであれば、マーケットインなどと言わず、「どこの誰がどんな状況でこれを買うのか、をしっかり考えていきましょう」と言えば良い訳です。マーケットインなどと言うから、見えている部分にのみ着眼し、見えていないもっともっと大切な部分に意識が至らないのです。

 

もう一つのパターンがあります。ビジネスを「問題解決」と捉える傾向です。同様の発想として、「ビジネスは、不足、不満、不便などなどの“不”を取り除く」という考え方も良く聞かれます。これらの発想自体、新たな収益軸を見出していく切り口、ヒントとして、とても有用な考え方ですが、問題解決、困っている、側だけへの着眼は、楽しい、嬉しいといったニーズを捉えきれておらず、ビジネスを発想する起点として片手落ちです。

 

悪いところを直しても良い会社になるわけではない、のと同じで、困り事のみに着眼してビジネスを展開しても、長い目で見て豊かな社会を築いていくために貢献することはできないのです。そして残念な事にあまり儲かることもありません。

 

更に、マーケットイン発想の誤用は、様々な形で表れます。売れること優先で次のビジネスを発想すれば、自社事業としてふさわしくない領域に進んでしまうこともあります。時流を踏まえる必要はありますが、流行りに乗るのとは意味が違います。鶏のから揚げが流行っているのでやってみます、というのと、長くやってきた洋食屋さんが時流も踏まえながら得意な料理に特化して「揚げ物専門店」としてリコンセプトして再スタートするのとでは意味が違うのです。

 

マーケットインという発想の下、目に見える症状に着眼してビジネスを行おうとしてしまう原因には、儲かりそうなものの中から自社で出来そうなものはないか、という浅い発想があります。収益事業の立ち上げとは、新たな価値を生みだすための挑戦です。挑戦に対して腰が引けているからこういった罠に落ちるのです。

 

中小企業の基本戦略はニッチ&ディープです。特定の領域や機能を深く提供しているから存在意義が保たれ、ある意味で楽しい経営が出来ているのです。ビビッて万人受けを考えてしまえばどうなるか。。。

 

現代社会は、最低限、生活に必要なモノは足りています。そのような環境下で収益事業の立ち上げが意味するところは、潜在的な顧客ニーズの掘り起し、市場の創造なのです。そして、これは潜在的であるが故にプロダクトアウト発想でしか実現することはできません。顧客にとってニーズとはいつも漠然としているもの。これをハッキリとしたカタチに仕上げていくのが収益事業立ち上げプロジェクトの本質です。市場創造の視点を持ったプロダクトアウト発想こそが独自の未来を切り開く唯一の道なのです。鉛筆立てだってまだまだ進化しているのです。

 

御社の次のプロダクトアウトは何でしょうか?

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