【第180話】“イノベーション”よりも大切にしたい“エボリューション”意識とは

インターネット、GPS、ペットボトル…、こういった私たちが毎日の中で使っている革新的な技術の多くは軍事用として開発されてきたものです。

 

例えば、インターネットは、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA : Defence Advanced Research Projects Agency)が、戦時下で通信線のどこかが途切れても、信号が網目(web)を伝って迂回して通信を完了させるようなプロトコルとして開発されました。

 

また、GPS(全地球測位システム)も同様、DARPAの開発技術として知られています。地上局を利用したシステムと比べて、衛星を利用することで、電波を妨害する山などの地形上の障害で受信不能に陥ることが少ないという特長があります。

 

そして、PETボトル。ポリ・エチレン・テレフタレートの樹脂ボトルは「戦闘の最前線で使える軽くて丈夫な水筒」として開発されました。

 

このように、我々の日常は、多くの「技術革新」、すなわち“イノベーション”に支えられています。そして昨今、ビジネスの世界で“イノベーション”は合言葉のごとく耳にします。

 

ところが、“イノベーション”の多くを担ってきたであろうはずの伝統ある技術系企業で、その言葉を耳にすることはほとんどありません。むしろ、技術出身の社長、経営者ともなれば、正直に言えばキライ。嫌悪感さえ持っておられます。

 

昨今、“イノベーション”が叫ばれる場面というのは、「これから新機軸を打ち立てるぞ」という一種の掛け声です。これはこれでビジネスにあたって素晴らしい意気込みではあるのですが、これを逆から見れば「まだ成せていない状態」ともいえます。

 

あるいは、“イノベーション”は「自分達は既存技術を否定し、その延長線は歩かない」とか、「既存の社会やヒエラルキーに属さず、新しい世界を生きるんだ」という思想感を宣言するために使われている面もあるように感じます。

 

こういったご自身の思想感を持つことは結構なことではありますが、“イノベーション”という掛け声の下で、「ぶっ潰す」、「ぶっ壊す」、「狩りに行く」といった、壊すとか倒す一辺倒な言葉を平気で口にするような風潮は褒められたものではありません。壊すだけなら誰にでもできます。創るのが大変なのです。

 

少し話は逸れましたが、昨今“イノベーション”は「技術革新」というよりはむしろシュンペーター的な「新結合」、自然科学の世界を超えて社会科学的な意味合いが強くなっています。ですから、「ちょっと新しい組合せ」、「ちょっと新しいやり方」、「ちょっと新しい売り方」といった程度で“イノベーション”だという主張が増えているのでしょう。

 

それ故、“イノベーション”を「技術革新」として、これまでずーっと地道に取り組んできた技術者からすると、そんな浅くて軽い主張に対して「やれるもんならやってみろよ」と言わんがごとく嫌悪感が沸き起こるのも無理のないことです。

 

そういった方々にとって“イノベーション”は「結果を出した」という実績宣言であって、「これから頑張る」といった意思表明ではないのです。

 

大いなる“イノベーション”を成した経営者のお話に共通するのは、“イノベーション”というよりも時代の進歩発展をリードしているのに近い感じですし、もっと大きな「進化」の法則、“エボリューション”の中を生きている感覚です。

 

この大きな「進化」は、例えばIoT、ロボット、AI…といった「革新的技術」としてビッグワードで表現されたりしますが、こういったビッグワードには、アパレルメーカーが、まだ流行っていない新作を「今年の流行」といって売り出すような自作自演的な側面もあります。

 

一種のムーブメントを駆り立てることは、商売上、大切なことではありますが、こういったビッグワード的なノリに対して、多くの専門技術者は、内心ゲンナリしているのです。

 

なぜならば、こういった技術というのは脈々と「進化」してきたものであって、大抵の場合、実用化される数十年もの昔から研究されているからです。それを知らなかっただけの人に“新技術”とか言われると、むしろ「ぽっと出の技術」だと言われているかのようで、嫌悪感を抱くのです。

 

大切なことは、ビッグワードを信念として地道に“エボリューション”を生きるか、はたまた、ビッグワードへ便乗して派手に“イノベーション”を叫ぶか…。これは極めて似て非なるビジネスマインドだということです。

 

“イノベーション”を「成したこと」、過去形で使っていますか?

ビッグワードに惑わされることなく“エボリューション”を生きていますか?

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