【第173話】必要のないモノの方が儲かるという利益性パラドックスの法則

売上で目標を掲げる企業の市場撤退が続いています。事業経営ですから売上が目標の一つとして重要なことは間違いありません。ですが、事業経営には数字では測りきれない意味があることについて、異論を唱える方は少ないでしょう。

 

売上だけを目標に掲げる企業がなぜ消えていくのか。その答えは実はそれほど難しくありません。

 

事業がおカネ集めのテーマに成り下がると、売上の拡大とともに利益性を喪失していくからです。これは原理であり、弊社ではこれを「利益性パラドックス」と呼び、売上拡大に際して利益性を損なわずに実現していくことを、とても重視しています。これは、法則と呼ぶに相応しい再現性を持っています。

 

なぜそうなってしまうのか…。商売とは不思議なもので「必要なモノは売れるけど儲からない」という法則があります。売上だけを目標に掲げてしまうと、自ずと「売れるけど儲からない」という世界に引っ張られていくからです。

 

そして、売上を伸ばしながらも利益性が低下して、そして資金が回らなくなり沈没してくのです。

 

売上を伸ばす以上に利益性の向上、すなわち事業・製品の付加価値を高める創意工夫が欠かせません。ただ売上というおカネ集めだけでは取り組みが足りないのです。

 

例えば、今の時期なら「ルームソックス」の市場創造は秀逸です。

 

「ルームソックス」は「靴下」ではあるもののフツーの靴下とは違います。「靴下」は、靴の下に履いて、素足の緩衝材、皮膚の保護、保温作用、吸湿効果といった機能を持ちます。また、ファッション性や素肌が見えては…といったマナーの意味合いもあります。

 

一方で、「ルームソックス」はどうでしょうか? 直訳すれば「部屋用靴下」。靴を履いてないのに靴下とは矛盾した名前の商品です。さらに、店先に並んでいる「ルームソックス」は、どれも“もこもこ”ですから、これを履いて靴を履くことなどもはや困難です。

 

靴を履いてないのに靴下と呼ぶのか…、といった呼び方の議論はさて置き、こういった事業の拡大、商品用途の拡大というのは、ビジネスを企てる立場から見て素晴らしい発想であり、靴下メーカーさんのご努力に頭の下がる思いです。

 

もちろんのことですが、「ルームソックス」は靴を履くためのものではありません。形が靴下の形状をしているだけで、足の冷えを防止したり、肌を保湿したり、血流を促進してムクミを取ったり、指先のストレッチ効果があったり…と、従来の「靴下」とは全く異なる機能・目的を持った商品です。

 

従来、「靴下とは靴を履くためにその下に履くもの」という“用途”でした。日本人の発想からいえば「外出時」ということです。ですから、帰宅したらすぐに靴下を脱ぐという方も多いでしょう。

 

そこで靴下メーカーさんは、「靴下の販売を伸ばすためにはどうしたらよいか?」と考え、「ルームソックス」という何とも名前からは矛盾する市場領域を創り上げました。

 

そして、「靴下」が3足千円の世界で、「ルームソックス」は、一足当たり1,000円から3,000円ほどの価格帯を形成しています。

 

本来、日本人の発想からすると、部屋で靴は履きませんから「部屋で靴下は不要」です。ですが、靴下メーカーさんは、それを新たな市場として狙い、「靴下」の“用途”を広げることで市場の拡大に成功してきたのです。

 

もちろん、必要性に劣るのですから、寒さ対策、ふわふわ・もふもふ・カワイイ、健康美脚といった従来の靴下にはない「新たな付加価値」についての工夫が必要になります。だからこそ、売価も高く、売れさえすれば儲かる市場が形成できるのです。

 

つまり、ニーズ(必要性)にも程度があって、必要性が強すぎると単価が安くなり、儲けを出せるような事業ではなくなっていくのです。

 

よって、経営者として成長発展を考えるならば、売上の拡大以上に利益性の向上に頭を巡らすことが大切であり、そのためには、矛盾するように聞こえるかもしれませんが、必要性が低いように見えても潜在顧客の支払い意欲の高い市場に事業を振っていくことが大切です。

 

既存商品を応用した新“用途”の開発に取り組んでいますか?

必要性だけでは測りきれない支払い意欲の高い市場創造に挑んでいますか?

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